「これが最後のチャンス」ジャーナリスト・安田純平氏のメッセージから読み解けるもの

2016年06月02日 シリア 人質 安田純平 拘束

  • LINEで送る
  • ブックマークする
  • シェアする

0602yasuda.jpg

 戦場ジャーナリストである安田純平(42)がシリア入国後、行方がわからなくなってから6月でちょうど1年。3月には彼と思しき男性が英語でメッセージを発したビデオに続いて、5/30に写真が公開された。

https://www.facebook.com/tarikcham?fref=nf&pnref=story

 赤っぽいオレンジ色のシャツを着て、正面のカメラを見つめている。ずいぶん伸びた髪とひげは一体化し髪は黒いがカール・マルクスのようだ。シャツは長袖か半袖かどちらかはわからない。というのもA3ほどの白い画用紙に「助けてください これが最後のチャンスです 安田純平」と記されていて、腕が画用紙に隠れているからだ。ちなみにそのメッセージ「これが最後のチャンスです」の部分だけが、赤い字で書かれ強調されている。

 背景は白い壁。これは3月のビデオと背景は同じように見える。おそらく同じ場所で撮影されたのではないだろうか。時期も不明だが、前回よりもさらに伸び、マルクスみたいになった髪とひげからするとビデオを撮った場所で、数ヶ月後に同じ人物を撮ったものと推定できる。もしかすると撮影してほぼリアルタイムに発表されたものなのかもしれない。

 顔つきからすると安田純平に間違いない。それに今回、日本語で記されたということからしても彼だという確証はさらに高まった気がする。この件について、新聞社が肉親に取材したところによると、本人の筆跡に間違いない、と話したそうだから、やはり安田くん本人と断定していい。

 彼の顔つきを見ると、3月に比べやつれた感じはしない。それよりも痛烈に感じるのは彼の不機嫌そうな目つきである。2003年に新聞社から独立してから昨年までの写真を何枚か見てみたが、にやついていたり解放感に浸っていたり、または緊張感に溢れていたりはするが、怒りを帯びた目つきの写真というものは見たことがなかった。この写真の彼は怯えている感じもない。不機嫌さの理由は、怒りではないか。彼を封じ込めている武装勢力に対し「こんなもの書かせやがって、ふざけんなよ!」とガンを飛ばしているのかもしれない。

 あと気になるのは彼の着ているオレンジ色のシャツである。このシャツ、昨年ISに殺害された故・後藤健二さん、そして故・湯川遙菜さん、そして他の国の人たちがそれぞれ首を切られ殺害される直前に決まって着せられていた服を彷彿とさせるのだ。

 こういう色の服を着せられている安田くんをみると、あたかもすぐに殺害されるのではという危機感を一瞬だが抱いてしまう。というか撮影者はそれが狙いなのだろう。

 しかしだ。ISが後藤さんらを殺害するとき、確かどれも屋外だったはず。それにナイフを持った処刑人、ジハーディ・ジョンが隣にいない。それに安田君はシャツの下に黒いズボンを履いているのがみえる。ISの処刑シーンを連想させようと撮影者は必死なのかもしれないが、このようにあちこちアラがみえてしまう。

 安田くんと私の共通の知り合いで、シリアにも行ったことがある、ジャーナリストの鈴木美優さんはツイッターで、次のように書いている。これにはまったく同感だ。

 "安田さんのあの写真、どう見てもまともなヌスラ戦線がやることではない。ISの真似をし、最後には安田さんをISに売る? 敵対している相手にどうして売るのか。名だけヌスラの連中がやることのようにしか見えない。

https://twitter.com/lailasuzuki/status/737090912954646529?lang=ja

 ここでいうヌスラとはヌスラ戦線の略。安田くんを拘束しているシリアの反武装勢力のことだが、ISのように殺したりはしないという話。

 彼女のツイートを読み、これを撮影した武装勢力は日本政府が交渉にまともにのってこないことからかなり焦っているのかもと思った。安田純平を売ってお金ガポガポ儲かるはずが全然のってこないぞ、と。

 場所は違うが、私は1998年にアフガニスタンでタリバーンに拘束された経験がある。そのとき、英語の話せる若いスポークスマン風の男と会話したのだが、印象に残っているのは尋問の途中に「日本で働いたらどのぐらい儲かるのか。働きたいからビザの紹介状書いてくれよ」と懇願されたことだ。同一視は出来ないが、そうしたところで武装勢力をやっているような連中はかなり純朴な奴が多い。身代金をもらって一攫千金したいがこの日本人を殺すのはちょっと......と躊躇しているのかもしれない。

 百戦錬磨の安田くんだけに、そうした彼らの純朴さを見抜き、長い時間をかけてずっと説得をしてきたのかもしれない。そして世話役との間にある程度の信頼関係を作り上げたのではないか。だとすれば怒ってガンを飛ばすのももっともである。信用していたと思ったらビデオを前に話しをさせられたり、日本語によるメッセージを掲げさせられたりということを強要させられたのだから。

 今回の一件について周辺の動きで、二つ気になることがある。

 ひとつは仲介人たちの動きである。昨年12月の「国境なき記者団」ウェブサイトに掲載されたニルス・ビルドによる「武装勢力は身代金を要求している」という内容の文章、3月そして今回、タリク・アブドゥル・ハクというシリア人によるビデオや写真のネット公開、そしてそれを受けての西谷文和というフリージャーナリストの取材・メディア出演。彼らの動きについては、安田くんの家族に断りなく行っているようで、家族たちはいたく迷惑がっているという話だ。ニルス・ビルドの文章では5000万円だった身代金が、西谷のツイッターでは11億円とはねあがっていることからも、こうした外部の人間たちの動きが、交渉を複雑化させていることは想像がつく。

https://twitter.com/saveiraq/status/737128887369400320

 もう一つ、気になるのは、安田くんよりも1カ月後に拘束されたスペイン人フリージャーナリスト3人のことである。彼らは安田くんよりも早く、今年の5月上旬に解放され、スペイン政府は「同盟国や友好国、最終段階では特にトルコやカタールの協力のおかげで実現できた」という声明を出したのだ。スペイン政府はいったいどうやって解放までこぎ着けたのだろうか。

http://www.afpbb.com/articles/-/3086342

 安田くんの家族を困惑させている仲介人をシャットアウトし安田くんの力を信じるのか。それとも家族に迷惑がられている仲介人たちを排除し、別の仲介人を利用して日本政府は交渉を進めるべきなのか。後者の場合、信用のおける仲介人はどこにいるのか。

イスラム法学者である中田考さんのツイートによると(https://twitter.com/HASSANKONAKATA/status/737208712754954244)

ヌスラ戦線の中でも身代金を取るべきと考えるグループとそうでないグループとで割れているという話だ。このツイートを読んでますます混乱してきた。これだと信頼できる仲介人を見つけられたとしても、内部がぐちゃぐちゃならいったい誰に交渉を求めれば良いのだろうか――。

 今後どうなるのだろうかはわからないが、まだまだ交渉が長びきそうな気がする。とはいえ、生きていることが判明したことについては何よりだと思った。無事を祈る。※一部敬称略

Written by 西牟田靖

Photo by Facebookより引用

  • LINEで送る
  • ブックマークする
  • シェアする

本で床は抜けるのか

人命を優先するために。

amazon_associate_logo.jpg

TABLO トップ > 社会・事件 > 「これが最後のチャンス」ジャーナリスト・安田純平氏のメッセージから読み解けるもの
ページトップへ
スマートフォン用ページを表示する