北方領土問題が解決して二島が日本へ返還されたらどうなるか そこに住む人々はそれで納得なのか

2019年01月22日 プーチン ロシア外交 二島返還 北方領土 四島返還 安倍首相

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001.jpg警備にあたるロシア兵


 1月22日に日露首脳会談が行われる。この会談を受けプーチンは6月に日本にやってくることになっている。そしてそのときに平和条約が結ばれるかもしれない。

 安倍首相はこれまで日本政府が堅持してきた「4島即時返還」を捨てて、「平和条約を結んだ後に2島を引き渡す」という風に方針を変えた。これはソ連、そしてロシアのぶれない主張に寄り添うもの。それだけに今回こそは解決するかもしれない。


島はどんなところか


 北方領土は千島列島に属する国後・択捉という大きな島々と、北海道の納沙布岬の先に連なっている小さな島々からなる。歯舞群島は無人だが残り3島は人が住んでいて、その人数は合計で1万数千人。開発されていない北海道という感じで自然は豊かだ。そんな北方領土の島々のうち国後島と色丹島に私は訪れたことがある。2003年と2006年のことだ。

 国後島には温泉がある。熊が出没する藪の中を30分ぐらい歩くと知床の見える海辺ぞいのものがポピュラーだ。街には売店やスーパーがあって一通りのものは食料品以外にも揃ったりするが物価は高い。時々海産物を取ってきたばかりという感じの人が海沿いを歩いていたりするのでそういう人にいきなりホタテをもらえたり、島の南端の民家で、日本のテレビ番組を見てみたりすることができた。


002.jpgすっかり島民は生活になじんでいる

003.JPG日本語の看板を見つけた筆者

004.jpgのんびりと日光浴


 色丹島は少し地形が変わっていて小高い丘の上に街があったりする。道は完全に舗装されてなくて私が行った2006年時点では国後同様インフラが非常に不便だった。魚介類の缶詰工場があるぐらいで自然は豊かだけどもはっきり言って何にもない島だった。この島で印象に残っているのは出稼ぎの中国人シェフが旅館で働いていたことだった。台風が来て建物から出れない日に焼きそばを作ってもらったこともある。


島は日本のものかと質問してみると......


 毎年、日本側からビザなし交流と言って旧島民の団体がやってくるためか、片言の日本語を話す人が多い。領土問題の是非については、旧島民の団体の人たちが来るたびに毎回集会を開いて話し合ったりするためか、島民の人たちにそういうことを聞いても別にタブーではなかった。

 そういう質問をすると、
「私たちはここでずっと生活をしてきたのでここが故郷なんです。だけど日本人が来るなら大歓迎。一緒に住めばいいと思う」といった通りいっぺんの答えが返ってくる。

 それでもしつこく聞いていると皆さん「ロシア領」という。国後島と色丹島ではちょっとニュアンスが違っている。国後島は「ロシア領」という人がずっと多数派だが、色丹島の場合はソ連が解体され非常に貧しかった1990年代は「日本に返還してもらいたい」という人が多数を占めたそうなのだ。しかし私が入った2006年の時点ではそういう人は少数派になっていた。

 今回引き渡されるかもしれない2島のうちの一島が色丹島なのだ。1956年の日ソ共同宣言のときに引き渡されるという風に文章化されたのがこの島なので、いつかは日本のものに渡るかもしれないという心構えは常にあるということなのだろう。


もし島が日本領になったらば


 さて、ここからはもしもの話になるが、日本領になった後の話を考えてみよう。そもそも安倍首相はこれまでの方針を変えて領土返還後の平和条約締結から、平和条約締結後の2島引き渡しと方針を大転換したので、たとえ今年6月にプーチンとの間で平和条約が結ばれたとしても、すぐに日本領にはならない。最悪の場合全く返ってこなかったり、交渉が長引いて5年10年かかる場合もあるかもしれない。

 ただし、平和条約が結ばれた時点で、地元の根室から定期船が出るかもしれない。今の時点で北海道とロシアの間でのビザなし渡航というのが検討されているから、少なくともパスポートさえ持っていれば根室から船で3時間ほどで行けるのではないか。

 ちょっとした冒険気分で行ったりとか温泉に入りに行ったり、釣りを楽しんだりといった目的には大変ふさわしい場所なので行ってみると面白いだろう。それこそ日本人目当ての民宿とか海産物を安く食べさせるレストランとかがオープンして特に北海道方面の人には手軽に行ける外国になるのではないだろうか。


005.jpg北方領土の一風景


 一方、問題解決が一般人の生活に影響があるかというとさほどはない。
 旅行に行こうとしても遠すぎる。根室へ行ってそこからさらに船に乗るというと二の足を踏む人が大半だろう。

 では、海産物が安く手に入るかというとこれも期待薄だ。現在、北方領土側のロシア人漁師がカニなどを取ってそれを根室の花咲港に貨物船で水揚げするというシステムが確立しているからだ。日本側から自由に漁できるようになっても人件費を考えると逆に高くなるかも知れない。

 だとすれば何が一番関係するかと言うと、我々が日々目にするテレビの全国天気予報だ。日本地図には国後島や択捉島がしっかりと表示されている。それが今後、領土問題が解決すればその2島が消えるということだ。これは日々のことなので違和感を覚え、安倍首相に対しての怒りを募らせる人が多くなるかもしれないのだ。

 ちなみに、天気予報を放送しているメンタリティは全然違うところにある。10年ぐらい前に某公共放送に電話して、

「全国の天気予報の概況で、国後島択捉島などの天気が晴れや曇り雨なので色分けされて表示されますけどどうやって予想してるんですか?」

 と天気予報スタッフに質問したところ、

「予報なんかしていませんよ。あそこは外国だからね。気象台は立てられないし」

 と答えたのだ。
 天気予報から国後・択捉が消えると、最初はぎょっとするかもしれない。しかしそれもそのうち慣れていくだろう。(文・写真◎西牟田靖)

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