バレンタインといえば、みなさんまっさきに思い浮かぶのは、ご存知「バレンタインコール」ではないでしょうか。そう、テレクラでお馴染みの。
1980年代中半に東京都新宿で発祥し、1990年代前半に全盛期を迎えたという出会い系、テレクラ。
わたしも小学高学年当時、池袋で「アナタの寂しい夜に、殿方が出迎え......☆」とかレディコミ風なイラストが描かれたものや、ずばり「人妻、SM、エッチしたいLadyはコチラ!」との文言が遊人先生のパクリイラストと共に載ったティッシュを受け取り、子供心に後ろめたさをもよおしたものです。
同時に湧いた抑えきれぬ好奇心で、友達数人と地元の駅前の電話ボックスや、わたしの自宅電話子機などで、きゃあきゃあ言いながらコールするだけじゃ飽きたらず、1人でも挑戦。
「オナニー、しよ、オナニー、はあっはあっ。そう、自分でさわるの、そう。どうなっているの? おしえて? はあっはあっ(すこすこすこすこ)」
というおっさんと30分以上電話し、切ったあと、パンティの不思議なぬめりに気づいたものです。その出来事を、数日後の学活の時間の「おもしろい話をするコーナー」で挙手して話し、教室を爆笑の渦と化したと同時に数名の女子が泣き出し、放課後には担任教師にこっぴどく怒られたことが鮮明に蘇ります。
ああそうだ。この担任というのが、帰りの会で毎回ギター鳴らし『なごり雪』or『戦争を知らない大人たち』をひとり熱唱する熱血演出クソ教師だったことも同時に思い出され、今すごくイライラしているのですが置いておいて。
もちろんツーショットダイヤルやダイヤルQ2にもコールしましたが、わたしは女子なので法外な請求に怯えることはありませんでした。
ーーといった昭和な思い出は中川淳一郎さんの連載を心底楽しみに待つとして。
現在。「バレンタインコール」は目黒店が平成28年1月31日を持って閉店したと同時に、店舗は全滅。公式サイトを確認すると、
「◯◯県にはかつて◯店舗ほどありましたが、すべて閉店しています」
といった切ない文言が地域ごとに並び、多摩地区のバレンタインコールにいたっては、
「多摩地区はバレンタインコールが最も流行った地域ですが、現在はインターネットの掲示板に当時の思い出が残るのみとなっています」
と、やたらとおセンチを誘います。
その掲示板とやらは、まだ店舗がいくつも残る同系列会社の公式サイトにもありました。どれほど懐かしの思い出を語り合っているのかと思いきや、みなさん現役バリバリじゃないですか。書き込まれる頻度は毎日3〜4本、テレクラで"遊んでいる"様子が垣間見えます。たとえばこんな感じ。
「入店後、数回のCB(コールバック)後にアポしたのは、やる気のないデブ女。仕切り直しとばかりに店に帰る途中、出会い待ちと思われる美人が。でもデブに無駄遣いしたため、悔しいかな素通り。あと1時間、巻き返しなるか。しかしこの日、最後までコールは鳴らなかった......」
「久しぶりに戻って来たぜテレクラに。さあ日暮里に旋風を巻き起こすぜ覚悟しな?」
「自分は20年選手。つながった女性と対面すると、なんと前もやったことがある地雷の軍人(プロ)! 何事もなかったかのようにしたけど......この穴を埋めるべく、まだまだテレクラはやめられない」
この、勝っても負けても楽しそうな感じときたら! 一瞬のギャンブルなのでしょうか。
一方、女性側もまだまだ健在だといいます。
「テレクラの数が少なくなったことで、それまで分散していた女性客が一局集中している。たしかに固定の軍人は目立つが、まったく繋がらないことはあまりなく、電話をすればまず誰かと繋がる状態です」(テレクラにそこそこ詳しいライター)
だとしたら、出会う気がなくとも、誰かの声を聞くだけで、ほんの少し、温もりの足しになるかもしれません。人の声というは、アプリの出会い系の温度のなさとは明らかに違うはずです。
「男性は『タダでやりたくて』、女性は『ホ別1・5で即アポしたくて』、みな必死だから、男女とも必ず話は聞いてくれます。最終的にCBされるでしょうが、ガチャ切りされることはないはずです」(前同)
「いのちの電話」はおおげさだけど、ちょっとヤバい......というときに、テレクラはいかがでしょうか?
さて、わたしも実際に電話をしなければ示しがつきません。てきとうなテレクラにコールしてみると......。
「もしもし......もしもし......」
ほんの数コールで、か細い女性の声に繋がりました。すごい、本当に健在です。でも、あれ? 女性......? どうやら間違えて男性用の電話番号に掛けてしまったようです。
そして、音声が切り替わるとこう続きます。
「電話番号で登録されました。ご請求額は◯分ごとに◯円です。のちほどショートメールでお送りしたサイトにアクセスし、金額を確認してください」
......え!? せ、請求されるの......!? ひいーーー!
まさか35歳をすぎてこんなことに怯えることになるなんて。当時、ダイヤルQ2の請求に怯える男子を指さして笑っていた、罰、なのかもしれません。
文◎春山有子
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