年末年始、久しぶりに実家に帰省すると、家の前にあった、竹やぶに囲まれた100坪以上の広大な畑と屋敷を所有していた吉田さん家(仮)がなくなっていました。
正確に言うと、竹やぶはすべて伐採され、青々とした畑は消え、さらに屋敷もサラッとなくなり、ただ味気のない土一面になっていたのです。
そんな中、道路に面した一角だけは、車の解体鉄くずがどっさりと積み上がっており、鉄の壁で囲まれています。いわゆるこれ、"ヤード"というやつです。よく、盗難車を解体する犯罪の温床の場として『実話ナックルズ』(ミリオン出版)等で取り上げられる場所として有名です。
よ、吉田さん家は......? 両親に聞くと、ヤードからもっとも離れた場所である、隅っこの一角を指さします。ああ、あの、申し訳程度のほったて小屋、あそこに、吉田さん一家5人......高齢のおばあちゃん、60代両親、3人の子どもたち(いずれも30代男)が、ぎゅうぎゅうになって暮らしているとのことでした。
小学生時代には、一面が菜の花畑になった吉田さん家の畑。そこで、吉田長男を含める友人たちとかくれんぼをした記憶と、体中があぶらむしだらけになっていることに気づいて阿鼻叫喚となったことがまるで昨日のことのように蘇ります。
一体、吉田家に何が起こったというのか。
その答えは、パチンコででした。数年前から、まずおばあちゃんが近所のパチンコ店「ニューヨーク(仮)」に通うようになり、次に両親が、次男が、三男が次々と吸い込まれ、そして最後まで抗っていたようだった長男が、新店「クラウン(仮)」の餌食になったところで、一家全員無職になり、14時間×365日を溶かし始めたのです。
当然ご近所さんたちは、吉田家は大丈夫なのかとヒソヒソしましたが、意に介さず。意に介さないどころか、突然竹やぶを伐採し、家を解体し、ほったて小屋を建て、ある冬の日にはからっからに乾燥する土だけの地から、枯れ葉とシケモクが原因で火災が発生、うちの両親含むご近所さんたちが消防車が来るまでの間にバケツリレーをした際も、吉田さん家からは誰一人出てこなかったといいます。いや、玉が出ている最中だったのかもしれませんよね。
そもそもその時点ですでに、その土だけの土地はすでに吉田さんのものではありませんでしたしね。パチンコの軍資金にするために99%の土地を売っぱらい、吉田さんの持ち物はほったて小屋のみ。で、ヤードとか怪しげな会社がやってきたりしたわけです。
なお、少し前になっておばあちゃんが細々と家庭菜園を始めたと言いますから、そうした"趣味"をできるレベルには悠々自適な暮らしをしていることがうかがえます。
精神科医の春日武彦さんと、作家の平山夢明さんの対談本『サイコパス解剖学』(洋泉社)の一説に、春日さんのこんな話が出てきます。
足立区のとある病院に勤務している春日先生の元には、それはそれはとんでもない"荒稼ぎ"たちがやってくるのだと。まず彼らは子沢山で、それが生活保護受給者ならば子どもの数に比例した額が支給されるのだと。そこで、生活保護認定をもらうために、春日さんの元へ「鬱です」とやってくるのだというのです。
精神科医としてはそれが詐病でも無碍に帰すことはできず、帰したとしても他病院に行くだけだし、他病院でもし薬が処方されようものなら転売してそこでも儲けが出るのだと。
<今どきはプライドを捨てたら、世の中って結構楽ちんなんだよ>
と言う春日さんに対し、平山さんは、
<ある種の生きる知恵だよね>
と頷きます。そこに潜む様々な社会問題なんかは置いておいて、たしかに世の中、結構楽ちん。吉田さんだって、全然辛そうじゃない。毎日パチンコが出来て、たまに畑いじりなんかしちゃって、すごく豊か。
「子沢山で精神科に通っている」からって、「パチンコにハマって土地全部持っていかれた」からって、そうしたパッケージだけで不幸と決めつけないでいただきたい。だって、そうやって決めつける輩より金持ってるし賢く生きているんだから。
目下の興味は、吉田さんはいつ軍資金が尽きるのか、尽きたら次の一手はあるのか......明日は我が身としてはそのサバイブ術を学ばせてもらいたいところであります。
文◎春山有子
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