週末までの遠さを実感する、げんなりするような週もなかばの朝。RADIOからその曲は聞こえてきました。
短調だがしかし聞かせるピアノの旋律に乗る、伸びやかな声がこう言います。
<大切な思いだけは、消えないでいる>
<繋いだ手の温もりは、まだここにある>
<凍えそうなとき>
<大好きだよ>
<時には傷ついたり>
<今の気持ちが消えてしまわないよう>
ああ〜なんか聴かせるわ〜〜といったメロディなので、ついついじっくり聞いてしまいましたよ。
曲が間奏に入った瞬間、一緒になにげなく聴いていた夫が頭の中のつぶやきを思わず口に出してしまいました。
「クソみてーな歌詞」
こらこら口が悪いぞと思いながら、同じ気持ちだったのは事実。
これが固定客が2人しかつかないストリートミュージシャンだったらそうは思いませんでしたが、ラジオでじっくり聞かされると際立つがっかり感!
「作詞コンクールで受賞した中学生の作品では?」
「いやいや、局Pの愛人のパワープッシュアーティストに違いない」
「これがあえて取り上げられるってことは、実は大物なのでは?」
曲終わりまで議論が続きましたが、答えはすぐに、パーソナリティが教えてくれました。
<西野カナさんでした>
「ああーーー!! 西野カナかあーーー!!」
それなら納得です。
「会いたくて震える」でお馴染みの西野さんですが、そのフレーズだけは知っているものの、きちんと聴いたことはありませんが、こんな噂だけは聞いたことがあるからです。
作詞方法は、JCやJKが使いそうなフレーズ、または好きそうなフレーズをホワイトボードにどんどこ書いてゆき、組み合わせる......と。
あくまでも噂の域を出ませんが、たしかに「作詞コンクールで受賞した中学生の作品」だと思いました。
というか、Jポップ御用達のフレーズばかりな気もします。
上記であげた、いかにもフレーズを検索したら、膨大な数の曲が出てくるはずだとにらみ検索すると......。
なんと、西野さんの曲しか出てきません!
<大切な想い>とか<繋いだ手の温もり>とか<時には傷ついたり>とか短めには一致する歌詞が出てきますが、ワンフレーズまるまる同じものは出てきません。
大変申し訳ございませんでした。
さらにこの曲、放送最終回を迎える「輝く!日本レコード大賞」(TBS系)で、なんかよくわかりませんが賞を受賞したようです。
そうしたよくわからない肩書きが加わると、ますます頭が下がるばかりです。
大変申し訳ございませんでした。
耳馴染みのよい既存のフレーズを、絶妙に使われていないように組み合わせるこのテクニックは、誰にでもできることではありません。
それって、既存を徹底的に研究し、どこにもないユーザーのニーズにドンピシャな、いや想像の範疇を超えたオナホを生みオナホ界に革命を起こした、TENGAの松浦社長と同じではないですか。
わたしは、まだTENGAが開発途中だった頃の松浦社長から、直接聞いたことがあります、「ビジネスは隙間だ」と。それこそ使い古されたフレーズですが、のちの成功者が言ったと思うと言葉にリアリティが増します。
そうか、西野さんは、Jポップ界のTENGAだったんですね。
お金がないと嘆きがちな昨今、隙間を探し当てれば一発逆転! なんて上手い話はないにしても、隙間探して毎日頭を働かせるだけでも、思考停止予防に効きそうです。
<死にたくなるのは思考停止から>
と言いますし、Jポップ界のTENGAこと西野さんを目指し頭を働かせたいところであります!
余談ですが、先日、90年代の大ヒット曲「サヨナラ」でお馴染みの、魅惑のジェンダーレスアーティスト、GAOさんに取材したとき、同曲についてこうおっしゃっていました。
「メロディや展開がちゃんとしていて、Aメロは指1本でも弾けるような曲が上がってきた。『この単音に、なんの言葉を乗せればいいのだろう』と、壁にぶつかって、何度も歌詞を書き直した」
音楽的センス皆無のわたしは、この話を聞いたときにピンときませんでしたが、今ならわかります。シンプルなメロディに乗る言葉に、違和感なくじっくり聞き惚れてしまうGAOさんの作詞能力は、すごいのだ、と。
文◎春山有子
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