世田谷区上馬北公園の公衆トイレを爆発させた男は◯◯◯◯の生まれ変わりだった――

2018年05月31日 トイレ爆発 上馬北公園 裁判傍聴 鈴木孔明

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toiletbom.jpgAbema newsより


 午前7時40分、世田谷区上馬北公園の公衆トイレで爆発が起きました。たまたま、犬の散歩のために付近を歩いていた近隣住民の方が爆発が起きた瞬間を目撃していました。

「突然何かが破裂するような大きな音がして...音のした方向を見てみると公衆トイレから横向きに炎が吹き出てくるのが見えました。その後、トイレから男が出てきて、自分の身体やトイレに水をかけていました」

 目撃者の110番通報で駆けつけた警察官によってトイレを爆発させた男は逮捕されました。男は大きな火傷を負っていましたが逮捕後すぐに病院で治療を受けたため大事に至ることはありませんでした。

 井上和成(仮名、裁判当時30歳)は『重過失激発物破裂』という罪名で起訴されて公判に臨みました。
 彼は平成22年頃から大麻や脱法ハーブを使用していて、それに気づいた家族に北海道の実家に連れ戻されたりもしましたが、結局違法薬物を止めることは出来ませんでした。そしてとうとう平成27年には逮捕され、執行猶予付きの有罪判決を受けました。裁判が終わって釈放された彼はすぐに逮捕前に通っていたハーブ店に向かいましたが、そのお店はなくなってしまっていました。
 彼は脱法ハーブの代わりになるものを探しました。そこで見つけたのが、カセットコンロ用のボンベでした。

「ビニールにガスを入れて口から吸ってました。ふわふわした感覚で気持ちよかった」

 と、使用感を説明していました。彼はハーブの次はガスにのめり込んでいきました。

 ガスの吸引を止められなくなり、そのことに危うさを覚えた井上はガスを断つためにダルク(薬物依存者の薬物依存症からの回復と社会復帰支援を目的とした回復支援施設)に入所しましたが、ガスへの欲求はもう抑えられなくなっていました。

「ダルクにはガスはなかったけど、トイレにあった消臭スプレーなどを吸ってました」

 もう彼には吸えるものなら何でもよかったようです。それでもやはり自由にガスを吸えない生活に嫌気がさした彼はダルクを出てしまいました。ダルクを出た時に彼は

「やっとこれで自由にガスを吸える」

と思ったそうです。


ガスを吸うと『声』が聞こえた


 ダルクを出た彼は上馬北公園のトイレに住み始めました。ガスをやりたい、それだけのために彼はホームレスにまでなったのです。このトイレの個室内で彼は毎日ガスを吸い続けました。1日に12本のボンベを空にしました。
 そして事故が起きました。ガスをやった後にタバコを吸おうとライターの火を着けた瞬間、爆発が起きました。ガスをビニールに入れる際や吸っている時に漏れたものが個室内に充満していて、それにライターの火が引火したのだと思われます。

 何故彼はガスにここまで傾倒してしまったのでしょうか? 彼の供述によると、ガスを吸うと『声』が聞こえたそうです。その『声』は彼に

「あなたは神武天皇の生まれ変わりだ」

 と語りかけてきました。彼はその『声』を聞くと不思議な万能感に包まれました。
 しかし、ガスを吸っていないとその『声』は聞こえないのです。『声』が聞こえない、それは彼には耐え難いことでした。彼はガスに、『声』に救いを求めていました。

 北海道の住む彼の家族は、

「身元引き受けはできない。弁償のための協力もできない。すぐに釈放されるにしても施設に入って社会から隔離されてほしい」

 と厳しい内容の手紙を彼に送りました。しかし、その手紙の中にはこうも書かれていました。

「またダルクに入所して、一年間クリーンだったら帰ってきてもいい。また、みんなで家族旅行に行こう」

 そして手紙には一枚の写真が同封されていました。彼がまだ薬物などに手を染める前、家族旅行の時に撮った写真でした。

 彼には更生を信じ、帰りを待ってくれている家族がいます。『神武天皇の生まれ変わり』なんかじゃなくても、前科二犯であっても、どんな彼でも受け入れてくれます。そのことに彼が気がつくことが、更生の第一歩なのではないかと思います。(取材・文◎鈴木孔明)

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