池袋には「死角」が多いのだろうか
岡田俊一(仮名、裁判当時30歳)ら三名はその日、池袋駅の階段周辺を徘徊していました。そして共犯者の根元(仮名)が探していた標的を発見しました。彼らが探していた標的、それは「盗撮犯」です。
階段の上の方にる女性のスカートの中をスマートフォンで盗撮している犯人を発見した根元は岡田ともう一人の共犯者に連絡して合流し、池袋駅近くの路上で盗撮犯に声をかけました。
「お前さあ、人に言えないことやったよね、盗撮」
声をかけられた男性はその場から逃げだしましたが追いつかれ、組伏せられた後に腹を殴られるなどの暴行を受けました。
岡田が否認していて、なおかつ証拠がないために暴行に関しては立件されていませんが、彼は元プロ格闘技選手です。
そんな彼に殴られ、強い口調で「あんまり怒らせるんじゃねえよ」と恫喝された盗撮犯はその後、抵抗する気を失いました。
「盗撮されたのは自分の彼女だ」
岡田はそう言い出して、自分の婚約者に電話をかけ、盗撮犯に謝罪をさせました。
彼女は実際に盗撮の被害に遭っていません。本当の被害者は被害に遭ったことにも気づかずその場を去っています。彼女は情状証人として裁判に出廷していましたが、通話記録が残っているにもかかわらず彼から電話があったことを否認していました。
今後再犯を犯さないように監督する、と証言していましたが、岡田が定職に就いていないことすら知らなかった彼女が本当に婚約者なのかどうか疑わしいです。個人的には、この女も犯行に協力していたと確信しています。
盗撮犯に電話で謝罪させた後、岡田らの恐喝が始まりました。
「被害届とかださないし、このまま帰してもいい。でももし、したいことがあるならしてもいい」
――示談金ってことですか?
「五万とか十万じゃ納得しないからな」
――いくらくらいですか?
「貯金いくらある? いくら出せる?」
――貯金は200くらいです。
「じゃあ200だな。200にしよう」
盗撮犯はこのような会話があったと証言しています。一方、岡田は、
「自分からはお金の話はしていない」
「金を差しだされたから受け取っただけです。よければ受け取ってください、と向こうから言ってきた」
と供述しています。
この会話の後、彼らは三時間以上も盗撮犯をつれ回し何回かに分けてATMで合計47万円を降ろさせました。それから「足りない分は翌日持ってこい」と時間と場所を指定した上で、ようやく盗撮犯を解放しました。
盗撮犯はすぐに警察に相談しに行き被害届を提出したため、被害に遭ったのはこの47万円で済みました。
彼らが巻き上げた47万円は、逮捕される前に風俗店や飲食費などで使い果たしていました。
他の警察署でもこの事件と酷似した内容の事件の取扱いがありました。盗撮犯を狙って組織的に金品を脅し取っていた可能性が非常に高いと思われます。
彼らは、盗撮を目撃し盗撮をした男性に声をかけて捕まえた一方で、被害女性には声をかけていません。犯行の主犯格だった岡田に至っては、盗撮の現場を見てさえいません。
「示談」の話は盗撮の被害者と何も関係のないところで進み、実際に金を受け取っていたのは被害者と何も関係ない彼らでした。
「お金をほしいと思った」
という、非常に短絡的な動機での犯行でした。
盗撮はもちろん犯罪です。許されることではありません。
しかし当たり前の話ですが、だからといって盗撮犯に何をしてもいいわけではありません。
「捕まりたくない」、その心の弱みにつけこみ集団で暴力を振るって金品を恐喝した彼らの卑劣極まりない犯行は強い批難を受けて然るべきです。盗撮が露見するのを恐れて被害者が警察に駆け込まないであろう、という計算もあったと類推されます。
岡田らの犯行の陰に見え隠れする彼らの卑怯な心根も盗撮同様に許せないものです。(取材・文◎鈴木孔明)
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