周りをキョロキョロと伺いながら早足でコンビニ店内を歩く青野圭介(仮名、裁判当時47歳)の挙動を、その時バックヤードにいた副店長は防犯カメラのモニターで注視していました。
モニターの向こうにいる彼は、店員がいないのを確認すると風俗店紹介雑誌を一冊手に取り持っていた紙袋の中に素早く隠しこんで店外へ出ていきました。副店長はすぐに追いかけ、彼に声をかけて事務所まで連行しました。
被害品は雑誌一冊で金額は500円、この時の彼の所持金は21円でした。
逮捕者である副店長は取り調べで、
「入店したときから怪しいと感じていました。この人は繰り返す人だと感じました。厳しく処罰してほしいです」
と供述しています。
一方、万引きの現行犯で逮捕された彼は、
「図書館を出て散歩をしている途中でコンビニに入ったことは覚えています。盗んだ時のことは覚えていません。雑誌はビニールで中が見れなかったから、500円くらいなら盗んでいいやと思ってしまったんだと思います」
と供述していました。覚えていない、と言いながらも犯行自体は逮捕当時から素直に認めています。
急に意識が飛んでしまう......
彼は以前にも前科4犯前歴3件の逮捕歴があり、その全てが万引きによるものでした。前回の万引きは執行猶予中の犯行だったため実刑判決が下されていました。彼は今回の事件の約2ヶ月前に出所したばかりでした。それでも彼は再び安易な動機による稚拙な犯行に及んでしまいました。
そんな彼のために情状証人として出廷したのは障害者支援施設を運営するNPO法人の方でした。
「被告人は出所後、区から生活保護を受給しながらNPOの寮に入所して生活していました。いつもはおだやかな性格で、規則を守って他の入所者とも仲良くしていました」
と普段の生活について話していました。しかし、時に異変が起きることもあったようです。
「ほとんど毎日話していましたが、たまに意識が飛ぶ時があって...。話を聞いているのかいないのかわからない時がありました。しばらくすると戻ってきますけど、この前後の記憶がないようなので話していた内容をもう一度言い直したりはしていました」
今後、再び万引きをさせないための対策として、
「意識がなくなってる時に万引きをしてしまうのだと思います。なるべく話す時間をたくさん作って、1人になる時間が出来ないようにします。刑務所に行くことになると思いますが、出所後はまた寮に戻ってきてもらうつもりです。彼は生い立ちから寂しい人生を送っていて愛情不足です。少しでも埋めてあげられたら...」
と話していました。
彼は病的要因で記憶や意識がとんでしまうことがあります。そして知的障害者でもあります。小学校、中学校は一般の公立校に通っていましたが、そこでかなり激しいイジメに遭っていたようです。
大人になってからは自衛隊、警備会社など職を転々としていましたが、どの職場でも彼はイジメのような扱いを受けました。
家族に関しては裁判では、
「疎遠になっている」
としか言っていなかったので詳しいことはわかりませんが、どの仕事も長続きせず万引きを繰り返すようになった彼に匙を投げてしまったようです。もしくはもっと以前から、知的障害が判明した時点から見放していたのかもしれませんが。
障害を持つ彼を受け入れてくれる場所は、この社会にはありませんでした。
彼のやった行為は窃盗罪です。たとえどのような事情があろうと許されません。
ただ、彼が「生い立ちから寂しい人生」を生きていく中で、大切なものを不当に奪われ踏みにじられ失い続けてきたことにも目を向けなければならないと思います。
証人の方は彼を「他人に心を開くのに時間がかかるタイプ」と言っていました。それでもNPOの職員の人たちが熱心に接したことで信頼関係は築いていけていたようです。
今後同じ過ちを繰り返さないためにも、彼には自分自身の人生を取り戻していってほしいものです。(取材・文◎鈴木孔明)
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