どこにでもいそうな普通の人が...(写真はイメージです)
平成30年1月7日、ドラッグストアの店頭に並んでいた販売価格9720円の福袋を持って店内を歩く鎌田瑞希(仮名、裁判当時35歳)の行動を私服警備員はずっと注視していました。
このドラッグストアでは年明けから福袋が万引きされる被害が起きていて、彼女を要注意人物として警戒していたのです。
右手に福袋を持ったまま精算を済ませることなく店外へと出ていった彼女の後を追って警備員は声をかけました。
「その福袋、お金払ってないですよね?」
「えっ? 払いました」
初めは犯行を否認していましたが事務所まで連行された後、犯行を認めました。逮捕後、自宅を捜索したところ5つの福袋が発見されました。それは全て同じ店で万引きしたものでした。犯行動機は「メルカリで売るためにやった」というものでした。
彼女は以前にも3回万引きで捕まっています。
初めて捕まったのは平成22年、2回目は平成28年、そして平成29年に捕まった際には裁判になり懲役1年執行猶予3年の判決が下されています。この時もドラッグストアでやはり転売目的で口紅を万引きしたというものでした。
前回裁判では、「もうメルカリは使わない。絶対に万引きはしない」と誓っていました。判決宣告日は8月4日、彼女のメルカリの履歴を見ると判決が言い渡されてから約一週間後、8月10日から再び取り引きをした記録が残っていて、36点の商品を売りに出して合計10万円以上の収入を得ています。
「今後の生活の不安や焦りなどでむしゃくしゃして、ついやってしまいました」
なぜ万引きをしてしまうのか問われた彼女はこう供述していましたが、年明けから毎日のように同じ店に通って福袋を1つ盗むという行動を「つい」続けてしまうとは考えづらい気がします。
「高い物を見ると悪いクセがでてしまう」
とも話していました。こちらの証言の方がまだ信用できそうです。
執行猶予期間中であることは「十分わかっていた」ということですが「犯行時は気が緩んでいた」そうです。
逮捕時は無職、時々風俗でアルバイト
彼女は高校卒業後、福島の実家から上京してきて一人暮らしをしていました。上京後は派遣の仕事などを転々としていましたが何をやっても長続きしなかったそうです。逮捕時は無職で、時おり風俗店でアルバイトをして生活をしていました。
貯金は20万円程度、たしかに「今後の生活の不安や焦り」を感じたとしてもおかしくはありません。ただ、それは万引きを正当化する理由には決してなりません。今回の求刑は懲役1年6ヶ月でした。前の執行猶予が取り消されることを考えれば、重たい求刑だと思います。
今後は福島の実家に戻るそうですが、再犯を繰り返さないためにも自分自身と向き合って今後の人生についてしっかりと考えてほしいものです。
彼女が捕まったドラッグストアに実際に行ってみました。繁華街の駅前の店ということもあってたくさんのお客さんが入っていました。
それに対して店員さんの数は少なく、店を出入りする他のお客さんに紛れれば簡単に万引きできそうです。彼女が逮捕されたのは、言い方が正しいかわかりませんが運が悪かっただけだと感じました。
そしてメルカリやヤフーオークションなど、盗んだものを簡単に売ることができる環境も整っています。彼女の犯行を擁護する気はありませんが、これでは万引きをしてしまう人が出てくるのも仕方ない気さえします。
たとえ万引きなどしたことがなくても、どこかのお店に入って商品を見ている時に、
「こっそりカバンに入れてもバレないかも...」
と考えたことくらいは誰でもあるのではないでしょうか?
普通はすぐ打ち消せるそんな誘惑に、不安を抱えていたり何かに追い詰められて心が弱っている時には負けてしまう人もいます。人は欲望に対してそう強くはありません。
彼女の裁判を他人事だと捉える人もいると思います。しかし、話を聞いてその話している姿を見る限りでは、彼女もどこにでもいそうな「普通」の人でした。(取材・文◎鈴木孔明)
【関連記事】
●「早く帰りたかった」 5歳の娘も犯行に加担させた万引き女 夫や娘たち、お腹の中にいる子の未来は...
●「クレージー・ランニング」が生んだ万引きマラソンランナー 原裕美子が苦しんだ過酷な体重制限
●病気なら万引きしても仕方ないのか 元マラソン選手・原裕美子さんの判決公判に裁判傍聴人が感じること