参院選も終盤に差し掛かった頃、一本の電話がかかってきた。
「ご無沙汰しています。ちょっとお聞きしたいのですが時間大丈夫ですか?」
相手は、僕のような下々の人間には滅多に連絡してこないのだが、一年に一回くらい酒を飲む関係の某公的機関の人間である。
「ちょっとお伺いしたいことがあるんですが」
はいはい......と気軽に返事をしたのだが、次には声がひっくり返ってしまった。相手が発した次の質問に。
「......あの山本太郎って関東連合と関係があるんですか?」
はああああ!?
百歩譲って、これが同業者だったら笑って「ないない」「そうかなあ。やっぱり」などと笑い合えるのだが、相手は立派な組織に属している人間である。僕は即座に否定した。
「ないでしょ!」
そして、これが「何かあると関東連合」「何かあったらとりあえず関東連合」という単純思考に陥ってしまう「関東連合幻想」という近年の、メディアを覆う一種の流行のようなにものの正体なのだろう。
そんなことを指摘したのが九月初めに出る拙著『関東連合――六本木アウトローの正体』(ちくま新書)な訳だが、こういった組織の人までもが「関東連合幻想」にかかってしまっているのか、と少し嘆かわしい思いをした。情報を扱う機関にいるのだから、もう少し精査した方がいいのではないかと。
それとも、選挙開始当時は苦戦が報じられていた山本氏が、終盤に近づくにつれ追い上げてきたので焦りが出てきたのだろうか。なりふり構わない選挙戦にはちょっとした怖さを感じたが。
否定する僕に食い下がる相手。
「でも、そういう話を聞いたんですけど」
――どうせ、それってネットとかですよね。あんまり信用しない方がいいですよ。僕が貴方にこんな事を言うのも釈迦に説法ですけど。
更にくいさがる相手。
「そうですかねえ」
さすがに、僕もそこまで言われたのでちょっと頭を働かせてみた。関西出身の山本氏には少年時代の接点はない。あるとしたら、上京してからだが......。六本木を取材していてもそんな話は入って来ない。サーフィンが好きだそうだが、それで関係があるというのは早計過ぎる......。と考えているうちに、思い出した。
僕は一年くらい前に新宿ロフトプラスワンのトークイベントでプチ鹿島さん、居島一平さん司会で、山本氏と共演していたのだった。その時の話を思い出したのだ。
そこで相手に指摘した。
――ああ。もしかして、映画『代打教師 秋葉真剣です』のことじゃないですか?
「それは何ですか?」
『代打教師 秋葉真剣です』はもう二十年前の映画で吉田栄作主演の劇場公開映画だ。確か山本太郎氏の俳優デビュー作ではなかったか。
――その時のエキストラが本物の暴走族やチーマーだったんです。で、その中に関東連合の人間もいたので、その事を言っているんじゃないですか?
新宿ロフトでは僕は、山本氏とその話をした。あっけらかんと「いやー、大変だったですよ。撮影は」と悪びれずに答えていたはずだ。
ないよなー、と僕は思い、まだ粘ろうとする相手に「僕のつたない取材経験、取材勘ですけど山本氏と彼らは関係ないでしょう。もしそうなら噂くらい入って来てもいいんですけど。僕らの同業でも誰もそんな話聞いていません」と強弁しておいた。
うーんと唸りながらまだ、納得出来なさそうな相手。僕は別に山本氏に特別肩入れする訳でもないが、さすがに気の毒になった。話しているうちに思い出したので相手に指摘させていただいた。
――それで思い出したんですけど、●●党にも元チーマーがいるでしょ。そっちの方がよっぽど関係が疑われても仕方ないんじゃないですか?
「それ、本当ですか?」
――単なる噂です。でもそういった話が少しだけ一部のマスコミの間で流れています。でも僕の知っている範囲では山本氏と関東連合の関係はないですね。
そんな内容で会話は終わり電話を切った。
選挙も終わったことだし、今度、落ち着いたら山本氏にはいろいろ聞いてみたいことがあります。
Written by 久田将義
Photo by 母ちゃんごめん普通に生きられなくて/ぴあ
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