明暗クッキリ!勝ち組は鉱業、建設、不動産...統計で見えてくる「アベノミクス」の正体

2013年08月13日 アベノミクス 政治 経済

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 「アベノミクスは庶民には無関係」

  野党政治家や左派系識者が声を上げるのを耳にする。しかし、6月の完全失業率(季節調整値)は3.9%と、リーマン・ショック直後の2008年10月以来初めての3%台に改善した。有効求人倍率(同)も0.92倍と、リーマン・ショック前の2008年6月と同水準になった。メディアで報じられたとおりである。

 テレビのニュース番組では、そのような統計を取り上げてから、「実際にはどうなのか」と各地で駅前の通行人や零細工場の経営者の談話を紹介するのが通例だ。

「庶民には無関係」といったコメントが飛び出すことが多いが、株式運用で生計を立てるような人に取材すれば全く違う回答が戻ってきたはずだ。誰を選んで取材するかで、どんな結論にもなる。

 

 そのような感覚論を排し、実際に誰が恩恵を受けているのかを統計で調べてみよう。 

 まずは、全国的には改善が明らかな雇用状況が、個別の業種や地方によりどのような差を生んでいるか。厚生労働省が毎月発表する「一般職業紹介状況」を調べることにする。公共職業安定所(ハローワーク)の求人や求職、新卒者以外の就職の状況を取りまとめた統計だ。

 ここで分かるのは業種別の求人数と過去の推移だ。単月の数値が得られるが、特殊要因に左右されないよう2013年1~6月の半年分の数値を計算してみた。これを2012年1~6月と比べるとどうなるか。

 パートタイムを含む新規求人数は全国で472万人と、前年同期の443万人より6.4%増えた。実は2012年1~6月は、2011年1~6月に比べ15.7%増だった。新規求人は増えているが、前年より増え方は鈍っていることが分かる。つまり、これまで悪化していたのが、アベノミクスによって急に改善されたとみることはできない。

 以下、主な産業大分類別に状況を紹介する。

▽鉱業,採石業,砂利採取業

 新規求人数が前年同期に比べ30.0%増え、全産業中で伸び率トップだ。最新データが入手できる砕石業の動向を調べた。経済産業省の「平成25年1月-3月期砕石等動態統計調査」によれば、砕石の出荷額は2013年1~3月の間、前年同期比3.1%増えた。全体のほぼ半数を占めるコンクリート用砕石は同3.9%増だった。震災復興事業や公共事業の増加が寄与したものとみられる。

 

▽建設業

 新規求人数は前年同期比10.1%増と顕著に増加した。「鉱業,採石業,砂利採取業」と同じ背景があるとみられる。

 

▽製造業

 前年同期比4.1%減少した。産業中分類でみると、「窯業・土石製品製造業」(9.2%増)と「木材・木製品製造業(家具を除く)」(8.2%増)の増加が目立つぐらいで、他は2桁の減少をした業種が多い。求人数の減り方が著しいのは、「ゴム製品製造業」(14.5%減)、「電子部品・デバイス・電子回路製造業」(14.2%減)、「情報通信機械器具製造業」(12.8%減)など。自動車、家電、携帯電話の部品・部材供給の現場で雇用が戻っていない状況を示唆している。

 

▽サービス業

「金融業,保険業」(0.9%減)以外は軒並み新規求人が増加した。とりわけ「宿泊業,飲食サービス業」(14.5%増)と「不動産業,物品賃貸業」(11.0%増)は2桁増だ。中分類では、「飲食店」(14.5%増)、「小売業」(11.3%増)、「職業紹介・労働者派遣業」(11.4%増)が大きく伸びた。

 

▽宿泊業,飲食サービス業

 観光庁の「宿泊旅行統計調査」によると、2012年中、全国のホテルや旅館などの宿泊施設の延べ宿泊者数は、前年比5.3%増だった。うち外国人の延べ宿泊者数は、同42.9%と爆発的に増えた。外国人が宿泊者数に占める構成比は前年の4.4%から6.0%に上昇している。

 2013年1~3月も同じ傾向で、全体では2.7%増、外国人は15.6%増。外国人比率は6.5%に達し、実数は1~3月としては過去最高になった。外国人旅行者が増える地域や施設で、求人が特に増えたものとみられる。

 外食事業者の団体「日本フードサービス協会」の統計によれば、2013年1~6月の売上高は、前年同期比0.8%増と横ばいだった。業態別では、ファミリーレストランが3.1%増、ディナーレストランが2.6%増だった一方、パブレストラン・居酒屋は2.6%減と不振だった。

 入手できる統計からは、飲食店で求人数が顕著に増加している理由は分からない。飲食店で働いていた人が、雇用状況が改善したため他の業種に転職したため人手が足りなくなったというような、需要増とは別の理由があるのかもしれない。

 

▽不動産業,物品賃貸業

 国土交通省の「不動産価格指数」2013年3月速報では、全国の住宅総合指数は前年同期から横ばいだった。ただ、地方によるばらつきが激しく、東北(5.9%増)と南関東圏(2.1%増)は値上がり傾向が顕著だった一方、中国(2.9%減)や四国(2.6%減)などは不振だった。マンションは全国的に値上がり傾向にあり、北海道(11.5%増)と九州・沖縄(8.4%増)が牽引した。

 また、国交省の「主要都市の高度利用地地価動向報告(地価LOOKレポート)」によれば、調査対象の主要都市・高度利用地150地区のうち、2013年1~3月には半数以上に当たる80地区で地価が上昇した。下落地区はわずか19地区。地価や住宅価格が局地的に値上がりし始めたことが新規求人数の増加に関係しているのだろう。

 ここまでは主な産業大分類別に求人数の増減状況をみてきた。次は地域別の分析である。出所は前述の「一般職業紹介状況」だ。

 地方別では、全地方で2013年1~6月の求人数が前年同期より増えた。トップは北海道(11.2%増)だ。1~6月のデータを過去4年分揃えると、北海道は6.8%増、10.5%増、13.2%増、11.2%増と東日本大震災による悪影響がなかったように好調だ。 

 次が近畿(9.2%増)、南関東(7.7%増)、東海(7.6%増)と続く。東北は、前年同期に40.6%と大きく伸びたが、2013年1~6月は3.4増と著しく鈍化した。全国で最も求人数の伸びが低い北関東・甲信の0.1%増に次いで、東北はワースト2位だった。

 都道府県別では、鳥取県(16.2%増)がトップ、次いで大阪府(14.4%増)、熊本県(13.9%増)、沖縄県(12.2%増)と西日本勢が高水準。減少県は茨城県(3.7%減)、福井県(2.9%減)、群馬県(2.7%)などで、東日本に目立つ。

 鳥取労働局が発表した2013年6月のデータによれば、求人数が多い産業のうち「宿泊業,飲食サービス業」と「サービス業(その他)」がそれぞれ3割前後の高い伸びを示した。大阪労働局のデータでも「宿泊業,飲食サービス業」が6月に42.0%増になるなど顕著に伸びている。同局発表文は、貴金属・ブランド品買取販売業者の話として、「業績は好調で各店舗とも人手不足の状態」と紹介している。飲食業と小売業の求人増は高額消費の伸びが支えているのかもしれない。

 さて、求人数とは別に給料はどうなのか。厚労省の「毎月勤労統計調査」によれば、常用労働者5人以上の事業所で、労働者の現金給与総額は2013年1~3月期に前年同期比0.6%減った。「アベノミクスにより株価や地価が上がっても賃金は上がっていない」という見方を裏付けている。

 業種別にみればどうか。意外なことに、求人数が増えている業種で給料の下落が大きい。「鉱業,採石業,砂利採取業」は前述の通り、求人は30.0%も増えたが、2013年1~3月の現金給与総額は前年同期比5.4%減、「宿泊業,飲食サービス業」も各地で求人を増やしているが給料は2.1%減り、「教育,学習支援業」(1.5%減)や「製造業」(1.2%減)が続いた。給料が減るから退職者が多く、その穴埋めのため求人数が多くなる、といった事情があるのだろうか。

 一方、「不動産業,物品賃貸業」は2.1%増、「学術研究,専門・技術サービス業」は1.7%増、「金融業,保険業」は1.0%増だった。景況感が良い不動産業や証券業で給料が増額になったのは分かりやすいが、学術研究の高い伸びはまるで不明だ。

 アベノミクスは全国津々浦々の庶民生活を抜本的に良くしたとは、とても言えない。実際、そんなことを言っている専門家はいないはずだ。しかし、限られた一部の業種で、そして局地的に、求人が増えたり、給料が増えたりしていることも事実だ。実際には、統計に現れない少数の人がもっと多く儲け、人手が足りなくて採用を増やしていることだろう。



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Written by 谷道健太

Photo by UggBoy♥UggGirl

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