もう数十年にわたってプロレスファンをやっていますが、未だに慣れないのが8人以上のレスラーがリングに上がっているような試合です。情報量が多すぎて最終的には勝敗などどうでも良くなってしまいます。
最近同じような感想を持っているのがスピンドルという仮想通貨を巡るあれこれです。仮想通貨というリングがあり、そこにはテレビではベビーフェイスだけれどそれ以外のメディアではなぜかヒールのGackt選手、関東財務局から行政処分を受けたことのある創立メンバー宇田修一選手、政治以外のところで色々と物議を醸す野田大臣夫妻、一般的には何をしているのかさほど知られていない金融庁と、様々なバックボーンを持ったレスラーたちがバトルロイヤルを繰り広げているといったイメージです。
それぞれにキャラが濃すぎて誰が勝つべきなのか、そもそも勝敗に意味があるのかすら見失いそうです。
しかし、こちらは「よくわからないからほっとこう」ではすまないような、大きな問題を抱えた案件でもありますので試合の流れをきちっと追っておきましょう。
簡単に整理すると、
1、スピンドルという仮想通貨が発行され、Gacktが広告塔の役割を果たす
2、売買の内容や方法の法的な問題を指摘される
3、発行者はそこをどうにかしようと野田大臣を介して金融庁とネゴネゴするも未遂
4、海外に上場したけど価値は暴落し、購入していた人が怒る
といった感じです。
この中で私たちが見過ごしてはいけない問題は2と3だと個人的には思っています。一番の花形であるGackt選手に注目したいところではありますが、残念ながらここでは主役とはなっていません。
2(4もリンクしますが)に関しては「スピンドルの売り方自体が適法なのか」という点が現状最大の問題です。しかし、実際のところこちらは法的にはまだ善悪が定まっていません。「資金決済法違反なのではないか?」と言われてはいますが、発行側はこれに反論をしており、現時点では決着がついていないというところが実際です。
もう一点「詐欺なのではないか?」という論点もありますが、これはあくまでもスピンドルを買った人に関係するお話であって、私も含めそうでない方にはあまり関係ないところではあります。
ここで部外者が知るべきは「別にスピンドルが特殊なわけではない」という点。
仮想通貨の上場(ICO)は、現状ではダマしダマされが横行する修羅の国です。スピンドルはそこで名乗りをあげた数多いる修羅の一つにすぎません。Gackt選手というスターを擁していたので目立ちましたが、実際にはひっそりとよそでも同じことが繰り返されています。まあ「他もやっているからスピンドルは悪くない」ではなく、そういったうまい話が転がってきた際にはそれを思い出して少し慎重になりましょうね、というお話です。
ちなみに個人的には3が一番興味深いところです。大臣本人は否定されていますが、「大臣が業者の便宜を図るために金融庁に圧力をかけたのではないか?」というお話です。
最近では大学の裏口入学のお話が話題になっていますが、私たちの身近でも「偉い人に頼んで交通違反をもみ消した」という話を噂話で聞くことはありますし、我々の業界でも「私は税務署や政治家に顔が利くので税務調査が入ったときには面倒見るよ」というような素敵なおじさまが存在するという都市伝説が存在したりもします。
こういった政治や省庁絡みの「口利き」がどこまで実際に存在するのかは知りませんが、それによって法を曲げたりすることはあってはいけないことです。そこに関して私たちは無関心であってはいけませんので、このことの経緯は見届けたいところではあります。
というわけで今後はGackt選手に目を奪われるのではなく、3のあたりを中心に気にしていただければと思います。華やかさはないけれど大事なところですので。
余談ですが、私選定のこの試合のMVPは金融庁です。仮想通貨関係に関しては割と厳格なお仕事をしてはいますし、報道通りであれば圧力にも負けなかったわけです。地味ではありますがいぶし銀の仕事ぶりを今回は称えても良いのではないでしょうか。(文◎高橋創[税理士])
資格予備校講師(所得税法)、会計事務所勤務を経て、
2007年に新宿二丁目で独立開業。
著書に『税務ビギナーのための税法・判例リサーチナビ』(中央経済社)
『図解 いちばん親切な税金の本17-18年版』(ナツメ社)。
事務所URLは、http://namahage-tax.jp/
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