「かぼちゃの馬車」といえばシンデレラ。そんなイメージで40年ほど生きてきましたが、ここしばらくは「かぼちゃの馬車」と検索ウインドウに入力をしても予測変換に「シンデレラ」の文字が表示されることはありません。
現在「かぼちゃの馬車」として話題を独占しているのは株式会社スマートデイズが展開していた女性用シェアハウス投資をめぐる事件です。
このシェアハウス投資はサラリーマンを中心とする物件オーナーが銀行ローンを組んで新築のシェアハウスを建築し、これをスマートデイズが一括で借り上げて運営する仕組みとなっていました。
副収入が欲しいサラリーマンには魅力的だったようで、物件数はどんどん増えていたのですが、今年1月にスマートデイズは物件オーナーへの「賃料の完全支払い停止」を発表、その後破産手続きが開始されるに至りました。「一括借り上げ」というハシゴを外された物件オーナーは自力で運営をせざるをえず、ただでさえ入居者が少ないシェアハウスでは収入がないのに、多額の借入金の返済だけはしなければならない事態となっています。
この事件に関してはそれぞれの関係者についての突っ込みどころが多々ありますが、私の最大の疑問は、
「なぜ銀行が融資をしたか」
という点でした。
税理士という仕事をしていると融資にまつわる様々な話を目にします。しかし、自己資金ゼロなうえに事業計画自体も怪しいところがある案件、しかも普通のサラリーマンの副業のために億単位のお金を軽々しく出してくれるような話はありません。そのあたりは割とシビアなのです。
しかし、そこで積極的な融資をしていたのがスルガ銀行です。スルガ銀行といえばもともと強気な融資で有名だったわけですが、この件に関しては当初からスマートデイズと結託し、不適切な融資審査を行った疑いがあると言われていました。
最近の調査で「複数の行員が審査書類の改ざんを知りながら融資していた」「融資実行の見返りにキックバックがあった」と公表されたり、危機管理委員会の報告書でも「二重契約と自己資金の偽装についての認識があったものと認められる」と明かされていますので、その疑いは事実だったようです。
このあたりはスマートデイズの破産手続きを通じてさらにに明らかになっていきそうです。
では、被害者たちは借金帳消しになるのか?
ただ、真相が解明され、スルガ銀行の責任が明確となったとしてもシェアハウスの入居者は増えませんし、借入金が消えるわけでもありません。物件オーナーの苦境は続くわけです。
「スルガ銀行・スマートデイズ被害弁護団」が結成され、物件オーナー側は今後被害者として訴えを起こすことになりますが、個人的には物件オーナーが完全な被害者として扱われている現状には少々違和感を覚えます。
そもそも、融資から物件購入に至る一連の流れをオーナーがまったく認識していなかったのでしょうか。仮にまったく認識していなかったしたら、それは高い買い物をする自覚がなさ過ぎます。
普通のサラリーマンが「初期資金ゼロ」にもかかわらず、そんな高額な融資を簡単に受けられると思えたのでしょうか。私は事情を知っていた物件オーナーも多いのではないかと思っています。
そう考えると、100%の被害者としてスルガ銀行を責めるのではなく、現実的には返済計画の変更や融資金の減額あたりで折り合いをつけるのではないかと予想しています。
毎年確定申告の作業をしていても、年々投資についての関心が高まっているのを感じます。もしかしたら美味しい話を見聞きすることもあると思いますし、勧誘を受けることもあるかもしれません。
しかし、投資は自己責任。まずは今の自分の身の丈を知り、その範囲内で一歩ずつやっていきましょう。シンデレラのようなサクセスストーリーが舞い込んでくることなど滅多にないのですから。(文◎高橋創[税理士])
資格予備校講師(所得税法)、会計事務所勤務を経て、
2007年に新宿二丁目で独立開業。
著書に『税務ビギナーのための税法・判例リサーチナビ』(中央経済社)
『図解 いちばん親切な税金の本17-18年版』(ナツメ社)。
事務所URLは、http://namahage-tax.jp/
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