閑静な住宅街にぽっかりと口を開くピンク色の世界 『あさくら画廊』が存在する意味とは

2018年06月15日 Mr.tsubaking あさくら画廊 どうした!? ウォーカー

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 足立区の閑かな住宅街に、ピンク色の異界がある。

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 あさくら画廊。
 この連載は珍スポットを取り上げているので、「見たことない場所」を求めてご覧いただいている方も多いかもしれないが、あさくら画廊はテレビで紹介されることも少なくない。
 その中で、あえて認知度の高いあさくら画廊を取り上げるのは、多くの媒体が、ここの「見た目にしか」フォーカスしていないためだ。
 そこで、あさくら画廊を知っているかたにも、ここに流れるアートの意味を私ツバキングが勝手に拾い上げようと思う。あさくら画廊の主人であり絵描きのしゅうへいさんに雑談のようなインタビューをしてきた。

(ツ=ツバキング、し=しゅうへい)
ツ:しゅうへいさんの作品を見ていると「創造」というより、元となるものを他から持ってきて、そこに絵を書き込んだり加工したりしてますね。
し:HIPHOPをいつも聴くんですけど、あれのサンプリング文化があるでしょ。あれと同じですよ。
ツ:よくわかります。それは、他者に対する敬意と畏怖がないとできませんよね。
し:そうなんです。


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ツ:日本人は元来、このやり方が得意だったんです。
し:元々、美大に落ちて受験用の絵が自分には描けないことがわかってこうなったんで。だから他から持ってきてるんですかね。
ツ:このやり方は「ブリコラージュ」って言って、人類学者のレヴィ=ストロースも「日本人は、ブリコラージュを駆使する素晴らしい民だ」と言っています。現代、アーティストというとなにかをゼロから創造するという自意識が強いですが、こんなに美しくブリコラージュしている作品はとても魅力的ですね。
し:作品のタイトルも、自分で考えるんじゃなくて歌の歌詞や、本の目次から好きな言葉を拾ってつけてます。
ツ:作品の作り方と同じ方法なんですんね。
し:そうなんですよ。


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し:コラージュはハマってましたからね。雑誌の誌面にバナナとかゴリラとかくっつけて、その上にキラキラを垂らしてみたり。そういうのはすげーいっぱいやってました。
ツ:ピンク色に目覚めたのはいつですか?
し:それも美大に落ちた時ですね。ほかの人みたいにうまく描けないということがわかって。
ツ:成功者の人生もいいけど、人生なんて、失敗して迷子になった道で偶然拾ったもので、出来上がっていくことがほとんどですよね。だからしゅうへいさんの、作品は優しいんだと思います。
し:(照笑)


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ツ:「あさくら明神」とか「あさくら稲荷」とか作ってますよね。特定の信仰に興味があったりはしますか?
し:そういうことはないですね。今、あさくら天主堂作ってますし。
ツ:あぁ、数を増やしていくとそれぞれの意味は無化されていきますからね。だからこんなに宗教的なキーワードに包まれてるのに、極端な思想は感じられないんですね。今度、「あさくら曼荼羅」を作ってくださいよ。
し:曼荼羅ってどんなやつですか?
ツ:密教の世界観で、仏の世界を表しています。様々なものがあるんですが、何体もの仏が中心から同心円的に配されたものとかがあります。
し:いいですね!つくります。


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ツ:「殺」とか「血」とか「死」とか、強烈な感じもたくさん貼ってあるけど、これも種類を増やすことでそれぞれの単語の意味を無化してますね。
し:そうかもしれませんね。でも、そこまでは考えてなくて、単語の意味よりも、なんかその文字にパワーを感じるものを作ってるんですよ。

 それほど多くない口数で、訥々とお話になるしゅうへいさんだが、大事なことがいくつも含まれていたように思う。すでにあるものを他の用途に使う原理であるブリコラージュは日本人が得意とする方法論。それは芸術ばかりではなく原発事故でも、汚染水が漏れ出すかどうかを判断するために、冷却水に色付きの入浴剤が混ぜられたりした。
 あさくら画廊に並ぶ作品は、まさにブリコラージュでできている。そして、意味の強烈なものをカオス状態にして均衡させることで、極端な思想に偏らないようにする振る舞いもまた、日本人が古くからやってきたことだ。


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 大陸からやってきた仏教は、教義とともに入ってきたものであるためにお寺には「意味」が詰まっている。一方で、日本にもともとあった神道には確固たる教義は希薄だ。そのため神社はフラットな場であり、そこに後からやってきた様々な神様(下手したら怨霊までも)が、寄り集まってカオスな空間を作っていることが多い。
 あさくら画廊はまさにそんな場所だ。


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 こんなにも強烈な作品ばかりが並んでいるのに、温和で優しい空気が流れている。ここにある作品一点づつも購入可能であるし、このあさくら画廊自体を丸ごと購入することもできる。
 あまりに有名な珍スポット、その奥に流れる日本人的な芸術性に触れに行ってみてはいかがだろうか。(連載・Mr.tsubaking 『どうした!? ウォーカー』第11回)


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住所:東京都足立西保木間2‐6‐22
開廊時間:7:00~19:00
定休日:水曜日
料金:1000円

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