靖国参拝で抗日が加速? 日本人敵役がボコボコなら公開許可の中国映画事情

2013年12月28日 カンフー 中国 反日 映画 香港

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ipman.jpg  1997年に香港が中国に返還される以前は、香港映画と大陸で制作される中国映画の交流はほとんどなく、両者は別物だった。

 香港映画の主なマーケットは中国大陸であり東南アジアであり日本や韓国、果ては世界中にあるチャイナタウン。中国の公用語は國語もしくは普通語と呼ばれる北京語だが、各国のチャイナタウンの公用語は香港と同じく広東語だからだ(主に広東省の人間が移住して街が作られたため)。

 香港映画は広東語映画。中国映画は北京語映画。これがまず大きく違う点だ。

 香港の中国返還後、映画は『HERO』(原題・英雄/2002年)のような、香港と中国の合作映画が当たり前のようになった。監督は中国出身のチャン・イーモウ(張芸謀)、主演は香港映画の新旧カンフー・スター、ジェット・リー(李連杰)とドニー・イェン(甄子丹)、そしてヒロインは大陸出身のスター女優チャン・ツィイー(章子怡)。このように合作は香港映画のスター男優と大陸で活躍する女優という布陣が多い。香港と大陸、両方からの出資者が資金を提供してくれることとなり、両者にメリットが生じるからだ。

 日本でも大ヒットした『少林サッカー』(原題・少林足球/2001年)はそういう時期に制作された。「香港映画」でありながら中国大陸での公開も見込んで、撮影はすべて大陸の上海市や珠海市でおこなわれた。監督も兼ねた主演のチャウ・シンチー(周星馳)はコメディ映画のスターとして大陸でも人気、知名度は抜群。

 しかし『少林サッカー』は中国で公開されなかったのだ。

 中国では、映画の検閲、審査、管理は「電影局」と呼ばれる機関がおこなっている。同局の担当者が言うには、

「『少林サッカー』は、内容が中国プロリーグのチームも描き、そのうえサッカーを茶化した映画になっているからだ」

 また、神聖にして国の宝でもある中国武術を代表する少林寺拳法をサッカーに活かすという内容はけしからんとの理由で上映禁止になったようだ。

 まず、電影局はチャウ・シンチーに映画を公開するための条件を言い渡した。

「1千年にもおよぶ少林寺の厳正なイメージを損なわないこと。仏教徒の感情を逆撫でする描写は全てカット、修正せよ」

 これを、シンチーは拒否した。

 これを喜んだのは、大陸のチャウ・シンチーファンだった。「さすが、シンチーだね」と。中国に住む香港映画ファンはこう言った。

「もともと映画館に行く習慣は僕たちにはないよ。だって香港映画はすぐに海賊版のDVDで見られるからね」

 香港でもこれは同じ。海賊版を指す「翻版」のDVDは近年数は減ったが、『少林サッカー』公開当時はまだ繁華街の露店やショッピングセンターの地下などで容易に手に入った。値段は日本円にして約200円(香港と同じ広東語エリアである広東省の深圳市や広州市ではもっと安価)。内容は、字幕、言語の切り替えからチャプターメニュー(メイキング映像やら予告編)まで、正式商品と変わらない完璧な海賊版。それが、まだ劇場で作品が公開されている時期に出回るのだ。

 2010年には、全中国で公開中の『アバター』(中国名・阿凡達)が急遽上映禁止になった。ハリウッドの巨匠ジェームズ・キャメロン監督による世界中で大ヒットしたこの映画は中国でも連日満員の入りだった。打ち切りとなった主な理由は、国産映画の大作『孔子』(主演は香港映画からハリウッドに進出した大スターのチョウ・ユンファ・周潤發)の公開が控えていたため、客足をアメリカ映画に奪われるわけにはいかないというもの。

 こういう方面においてもやはりおそるべし中国、である。

 台湾出身のアン・リー(李安)監督が本格的にハリウッドに進出して撮り、第78回アカデミー賞監督賞受賞に輝いた作品『ブローバック・マウンテン』(2005年)も中国では上映禁止。理由は、同性愛を描いているから。過激なラブシーンのある作品も中国では公開が許可されないが、同性愛は精神障害とさえ考えられているためである。

 日本でもヒットした香港映画の名作『インファナル・アフェア』(原題・無間道/2002年)は香港用と大陸用2種類のエンディングが予定通り撮影され、大陸でも公開が叶った。香港版と違い中国版は、長く警察官として潜入していたアンディ・ラウ(劉徳華)扮するマフィアの男が「正体がわかった、逮捕する」と警官バッヂを取り上げられて終わる。警察が明確に悪を駆逐したとの結末でないと中国では公開がアウトということだ。

 日本は香港映画界にとっては大陸に比べると小さな市場だが、上映禁止作品などはない。2011年になって公開された『イップマン 序章』(原題・葉問/2008年)は、主演のドニー・イェンに日本のイケメン俳優・池内博之がボコボコにされるシーンが見せ場だ。日中戦争が勃発した1930年が舞台で、日本人の将校を演じる池内は空手の名手であり、早い話、悪役だ。

 それでも当代きっての香港のアクション映画スター、ドニー・イェン作品だということもあって、日本の配給会社は大いに歓迎。日本から香港に渡ったパイオニア、倉田保昭も悪役が多かったが何ら問題なく日本で作品は公開されてきた(もちろん、反日描写大歓迎の中国は喜んで公開する)。

 中国でも大人気のドニー・イェンが「大陸にもっと気に入られよう」と思って撮ったわけではなかろうが、『レジェンド・オブ・フィスト 怒りの鉄拳』(原題・精武風雲 陳真/2010年)はかつてない日本人ボッコボコ映画だ。日中戦争期の上海を舞台に、ドニー扮する陳真(かつてブルース・リーが『ドラゴン怒りの鉄拳』原題・精武門/1972年でも演じた架空のカンフー・ヒーロー)が、日本軍の暗殺組織の連中をぶっ倒してゆく映画で、登場する日本人連中は情けのかけらもない悪党として描かれる。あまりにえげつないということでこの映画だけは当初、日本の配給会社はどこも買うつもりはない、との姿勢だった(尖閣諸島問題も起こり、さらなる反中感情の激化を配給会社が恐れていた)。

『精武風雲 陳真』のラストの壮絶な殴り合いの決闘でドニーに殺される力石猛役を演じた木幡竜は、この作品の中国での宣伝活動に参加する予定だったが尖閣問題が理由でキャンセルした。しかし、このドニー・イェン主演の娯楽大作は2011年に日本で公開された。日本人悪党の1人にあのEXILE(エグザイル)のAKIRAも出演してキレのあるアクションを披露している。

 2013年8月、少林拳発祥の地として知られる中国河南省の少林寺の周辺に、少林拳とサッカーを融合させて教えるサッカースクールを2017年までに建設する計画が先ごろ発表された。

 現在、日本から中国に渡って活躍している若い俳優が何人かいるが、皆さん大陸の映画やドラマで悪辣な日本の軍人役を求められ重宝されている。本日も中国は抗日エンタメは元気いっぱいのようだ。

Written by 沢木毅彦

Photo by イップ・マン 序章 [DVD]

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抗日はジャンルとして確立。

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