東京ブレイキングニュースで何度かに渡ってお伝えしている『ハイスコアガール騒動』に新たな動きがあった。知的財産法の研究者らが中心となり、刑事手続そのものに対して異を唱えたのだ。
※参考リンク
スクエニ本社を家宅捜索「ハイスコアガール」問題の不可解な経緯
http://tablo.jp/culture/money/news001617.html
「ハイスコアガール騒動」で作者やスクエニ社員16名が書類送検
http://tablo.jp/culture/akihabara/news001798.html
今回の反対声明に賛同者として名を連ねているのは、明治・慶應・一橋・同志社といった各大学の教授や弁護士に元判事といったそうそうたる面々。ただ不思議なことに発起人が誰なのかはわからない。通常こうした声明文は窓口となる組織なり個人なりの名称を記載するのが当たり前だと思っていたのだが、賛同者の一覧だけしか載っていないのが気になるところではある。これでは責任の所在が解らず、堂々とした建設的議論にはならないと思うのだが......。
※参考リンク
反対声明文・原文 http://www.kisc.meiji.ac.jp/~ip/20141222seimei.pdf
それはさておき、この声明文には学のない私ごときが指摘するのもおこがましいが、少し首を傾げざるを得ない点が見受けられる。業界の萎縮を防ごうという目的は理解できるのだが、この声明文の内容には非常に強い違和感を感じてしまうのだ。
声明文には「本件のように著作権侵害の成否が明らかではない事案について、刑事手続が進められることに反対する」と書かれているが、成否が明らかではないが、悪質な手法で損害を受けたと感じたからこそ、SNKプレイモアはスクエニを刑事告訴したのではないだろうか?
同人活動をしている方ならばもしかすると詳しいかもしれないが、SNKプレイモアはキャラクターの二次使用等に対して寛大な対応をしてくれる事で知られている。はっきりと明言したかどうかは定かではないが「どうぞお好きにやってください」という姿勢なのだ。知人の同人サークル複数や出版社から聞いた話によると、事前に使用許可を出せばまずOKが出るそうで、こうした企業の中では担当窓口がしっかりしている点とレスポンスが良い点で安心できる相手なのだとか。ただしこれには注釈が必要で「事前に申請された場合は緩い」ということ。事後に発覚してからも緩い対応をしてくれる訳ではない。
しかも、今回の一件は過去の記事にも書いたが非常に長い時間を経ての話であり、SNK側は早い段階でスクエニに対して「許可申請を出して欲しい」「交渉の席を作って欲しい」といった打診をしていた。それを何故かスクエニがハネ続けたからこそ、ここまで悪化してしまったとしか考えられないのである。
また『ハイスコアガール』というマンガにはSNK以外のゲームメーカーのキャラクターも登場するが、そうしたメーカーにはちゃんと許可を得て、さらにはコラボグッズの展開までしているのだ。それなのにSNKの許可だけを取っていなかったという不思議な状況なのである。にもかかわらずコミック中に『©SNKプレイモア』と、さも許諾を得たかのようなウソの表記までしており、これを悪質と言わずして何が悪質なのかという話だ。
ここまで話がこじれたからこそSNKも刑事告訴という最後の手段を採らざるを得なかったように思うのだが、これでもなお刑事告訴はイカンと言うのであれば、日本のコンテンツ業界は無法地帯になってしまう。業界の萎縮は防げるかもしれないが、代わりに際限なく業界全体が暴走し、秩序もマナーもへったくれもない状況に陥るのではなかろうか?
例えば、どこかの企業が今回と同じ方法でスクエニのキャラを無断で好き放題使い倒したマンガやゲームやアニメなどを制作したらどうなるだろう。間違いなくスクエニは権利侵害されたと訴えるはずだ。話を穏便に済まそうと、権利侵害を受けたスクエニの側から交渉を持ちかけているのに1年も2年ものらりくらりと逃げられたら、いきなり刑事告訴から始まる可能性も充分に考えられる。今回の件は【企業vsエロ同人を作ってたサークル】などではなく【企業vs企業】である点を考慮していただきたい。
これは「ビジネスマナーを守りましょう」という簡単な話をするための刑事告訴でしかないように思うのだが、それが許されないとなったら日本は海賊版天国の国々を笑えなくなってしまう。今回の声明は一見すると「マンガ・アニメ・ゲームといったコンテンツ産業を守ろう」という目的があるように受け取れるが、実はこのロジックが成立してしまっては「表現者・制作者の権利が守れなくなる」のである。
私は日本のコンテンツ産業を育てるためにも表現の自由や可能性は最大限に守られるべきだし、著作権や隣接権に多少の融通を利かせて欲しいと考えてはいるが、それは「最低限のルールやマナーを業界が守る」という大前提あってのこと。それが守られないと判断した場合に、警察などの公の機関に判断を仰ぐというのは、企業やクリエイターが有して当然の権利であり命綱であろう。
「業界の萎縮を招く」という言葉は実は使いどころが難しく、明らかにヤラかしてしまっている案件でそれを持ち出すと、いずれ誰も話を聞いてくれなくなってしまう。「差別が~!人権が~!」という人の生死に直結するはずの大事な言葉が忌み嫌われてしまった理由を考えてみて欲しい。大事なのは何を守り何を我慢するかのバランス感覚である。
今回の反対声明は、流石に 「出す場面を間違えた」 ように思えてならない。
Written by 荒井禎雄
Photo by ハイスコアガール(1)
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