2014年にモーニング娘。を卒業した道重さゆみ座長公演『SAYUMINGLANDOLL 〜宿命〜』観劇レポート
2018年04月18日 SAYUMINGLANDOLL アップフロント モーニング娘。 道重さゆみ
SAYUMINGLANDOLL~再生~ (Blu-rayで発売中)
東京・丸の内COTTON CLUBで絶賛上演中(4月22日まで、大阪公演は7月3〜8日)の『SAYUMINGLANDOLL 〜宿命〜』を観劇してまいりました。
本公演は、2014年にモーニング娘。を卒業した道重さゆみさんの座長公演。グループ卒業後、約2年半芸能活動を休止していた道重さんは、昨年上演された『SAYUMINGLANDOLL〜再生〜』でまさに"再生"したわけですが、今回の『宿命』公演はその第2弾です。
この『SAYUMINGLANDOLL』は、とにかくジャンル分けが難しい。公式サイトでは、
"「コンサート」でも「ミュージカル」でも「ディナーショー」でもないパフォーマンス、音と光、そして映像が織り成す約80分のSHOW"
と表現されています。もちろん歌とダンスもあるし、映像やライティングによる演出もたくさんある。ストーリーのようなものがあるにはあるけど、ミュージカルや演劇とは全く違う......。
とにかく"未知なSHOW"であるわけですが、ただひとつ明らかなのが、全体を通して「道重さゆみ」の魅力が詰め込まれていること。最初から最後まで、「道重さゆみ」だらけで構成されており、言うなれば「道重さゆみパビリオン」といった印象。仮に万国博覧会的なものに「道重さゆみ館」なるパビリオンが出展されていたとすれば、おそらくそこで上演されているのが『SAYUMINGLANDOLL』なのだと思います。
昨年の『再生』は、「モーニング娘。からの卒業〜休業〜再生」という流れを経たうえでの"再生公演"だったこともあり、「道重さゆみ物語」にスポットが当たっていたような気がします。しかし、今回の『宿命』は、どちらかというと「道重さゆみの日常」にスポットを当てたものだといえるでしょう。ネタバレになってしまうので詳細は控えますが、必ずしもドラマチックに展開していくわけではなく、むしろありがちな日常が進んでいき、そのなかで「道重さゆみらしさ」が描かれていきます。そして、日常的だからこそブレることのない濃密な「道重さゆみらしさ=アイドルらしさ」がより一層浮き彫りになっていくのです。
もちろん「道重さゆみの日常」といっても、リアルな道重さゆみの生活が描かれているわけではなく、あくまでも「ファンタジーとしての道重さゆみ」であることは言うまでもありません。それは、道重さん本人のなかで創造されている理想型なのかもしれないし、あるいは道重さゆみを愛する人々が思い描く道重像なのかもしれない。そういった「ファンタジーとしての道重さゆみ」を、「生身の人間である道重さゆみ」がステージ上で再現することで、現実と虚構の境界線が曖昧になり、なんとも形容し難い不思議な空間が作り上げられるのです。
また終始「道重さゆみらしさ」に溢れているということは、裏を返せば「道重さゆみがいなくては成立しない」ということでもあります。昨今のアイドルシーンにおいては"箱"を保ちつつ、オーディションやバトルや投票やプロデューサーの一存で、メンバーたちが入れ替わることも日常的となっており、誰かが欠けても成立してしまうものです。道重さんがそんなつもりかどうかはわかりませんが、まるで「システムの上に成り立つアイドル」に一石を投じ、1人のパーソナリティーこそに依存するスタイルのアイドルの姿を強く提唱しているかのようにも感じられます。
極限まで多様化した現在のアイドルシーンにおいて、道重さんは『SAYUMINGLANDOLL』を通して「アイドルの再定義」を試みているのではないでしょうか。何かと「アイドルの枠」ということが語られることが多い今、狭義の「アイドルらしさ」を表現する『SAYUMINGLANDOLL』は、アイドルを語るうえでとても重要な作品になってくるはずです。
そして、この公演のサウンドトラック盤がとても素晴らしいということも付け加えておきたいところです。かつてデヴィッド・ボウイが架空のロックスター「ジギー・スターダスト」の栄枯盛衰をコンセプトアルバム『ジギー・スターダスト』で描いたように、道重さんもまたアイドル「道重さゆみ」を『SAYUMINGLANDOLL』で描いているわけです。会場で先行発売されている『宿命』のサウンドトラック盤は、実際に公演の内容に沿う形で楽曲が収録されており、まさにコンセプトアルバムそのもの。前回の『再生』のサントラ盤も含めて、アルバム単位ではなく曲単位で音楽が消費されることが多いこの時代には貴重な1枚となっています。
現在のアイドル界において、道重さゆみ以上にアイドルにこだわり、アイドルを体現し続ける人はいません。だからこそ、道重さんは普遍なるアイドルサーガを紡ぐことができるのです。今後『SAYUMINGLANDOLL』がどう展開していくかは不明ですが、このまま一大サーガへと発展していくことを期待せずにはいられません。(文◎大塚ナギサ)
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