こんな時、あなたならどうするだろうか?
私の場合は、店の前でしばらく呆然としてしまった......。「肉あんかけチャーハン」屋さんの前で40過ぎのおじさんが、看板を見つめながらただ呆然としている。おそらく口も開けていたであろう。これは異常事態ではないだろうか?
「この店...何回か前に久田さんがレポートしてた店では......」
よし、じゃあ確認の意味も込めて入ってみよう。
気を取り直し、私はその店へと歩を進めた。
Tシャツ姿の元気な店員さんが出迎てくれた。
早速注文をと思いメニューを見ると、様々なチャーハンが並んでいる。
通常であれば、この店の看板メニューであろう「肉あんかけチャーハン」を頼むべき所であろうが、他のチャーハンも捨てがたい。
逡巡する私に、一筋の光明が差した。
「あいがけ」である。
「1度に2度おいしい! 欲張りなあなたにオススメ!」そう私は欲張りである。
焼き肉を食べた後、店先にある飴(もしくはガム)。
「ご自由にお持ちください(1人1粒まで)」と書いてあるにもかかわらず、たまに2粒取ってしまう。そう、私は欲張りなのだ。
一切の迷いが晴れた。
おそらく晴れやかな顔つきで私は、そのTシャツ姿の元気な店員さんに「あいがけチャーハン、エビ玉あんかけで」と告げた。店員さんは元気よく応え、後ろを振り向いた瞬間、そのTシャツには、こう書かれていたのである。
「チャーハン命」と。
それからのことはあまりよく覚えていないが、たしか泣きながらあいがけチャーハンを、「かっこむ」ようにして食べたと思う。
「吉野家」が、「肉あんかけチャーハン」屋に変わって、落胆した自分を私は恥じたのだ。
今までの40余年、命を掛けて取り組んできたことがあったであろうか。
少なくとも、今、私の目の前にいる店員さんは「チャーハン」に命をかけている。
だったら、今の私に出来ることは、目の前のチャーハンに対して、真摯な態度で向き合うこと。
そして、「食べている」のではなく「食べさせて頂いている」という概念、その大切を今一度、噛み締めて味わうべきではなかろうか。
私たちは発見した。
「命掛けのヒルメシに、貴賤なし」
これからも至高のヒルメシを求め、私たちの旅は続いていく......。
文◎石崎典夫(LOFT9 Shibuya)
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