ボクシングには通常のスポーツでは考えられない金額が動く場合がある。2015年5月に行なわれた、フロイド・メイウェザー・Jr対マニー・パッキャオ戦だ。300億円のギャラが動いた、まさに世紀の一戦だった。
試合内容自体は、逃げるメイウェザー、追うパッキャオの様相で凡戦との評価が多い。酷評した代表格がマイク・タイソンだった。
今回のゲンナディ≪GGG≫ゴロフキンvsサウル≪カネロ≫アルバレスは、メイウェザーvsパッキャオ以来のスーパースター同士の激突。そして、メイウェザーvsパッキャオのような凡戦にはならないだろうと言われていた。両方とも打ち合いが好きな選手だからだ
カザフスタン出身のゴロフキンは35歳。現WBA・WBC・IBF世界ミドル級スーパー王者。無敗。ニックネームのGGGはグレイト・ゲンナディ・ゴロフキンの略だ。
対するチャレンジャー、メキシコの若き英雄27歳のカネロ(メキシコ語で赤毛を表すシナモンの意味)は一敗のみ。この早熟の天才は15歳でデビューしてから負けなし。唯一の敗戦が中量級史上不世出のボクサーで無敗のまま引退したメイウェザー。
ゴロフキン、カネロともに右構えのオーソドックス。ゴロフキンが左ジャブをつきなかせジリジリと比較的ゆっくり追い詰め、最後は猛獣か獲物を捕獲するように強烈なパンチをまとめて勝つのがパターンだ。
対するカネロは攻防すべてパーフェクト。WBA世界ミドル級スーパー王者・WBC世界ミドル級王者・IBF世界ミドル級王者・IBO世界ミドル級。元二階級制覇。メイウェザーをはじめ、コット、チャベスJr、アミール・カーン、ジェームズ・カークランドなど名の通った猛者を圧倒的なKOや判定で勝ってきた。ロープに詰められているように見えて、誘ってからの逆襲の上下に打ち分けるパンチは強烈だ。彼にはブロックは通用しない。あのコットも何回かぐらついた。カネロのパンチを無効にするには、メイウェザーのように、当てさせない事しかない。
そしていよいよ9月17日世界中のボクシングファンが待ち望んでいた試合のゴングが鳴った。現地ではベビーフェイス(二人とも顔的にベビーフェイスなのだが)であり、メキシコ移民が多いラスベガスだけあって、カネロへの声援が多い。
【カネロの計算違い】
1Rこそカネロはゴロフキンにブロックの上からだが、当てにいった。彼の当て勘は超一流だ。このままのペースだとカネロのKO勝利もありうる。しかし、2R以降、ゴロフキンが前に出でくる。カネロが足を使って、後ろに下がる。ローブを背負う。彼自身が何度も戦ってKOにもっていったパターンだ。
しかし、何かが違う。ゴロフキンのパンチが予想以上に重い、威力が今までやった相手より強い。カネロはそう感じたのではないだろうか。ボクサーが効いている時にあえてやる「効いていないよ」という首を振るジェスチャー。カネロがやるのを始めてみた。
カネロのパンチの威力を殺すのはブロッキングではダメ。メイウェザーのようにスウェー、ダッキングなどで当てさせなければよいはずと思っていたが、この手があった。ゴロフキンはパンチをまるで、拳銃のように相手に向けて、プレッシャーをかけてロープに追い込む。
ロープに追い込まれたカネロは幾度もこの闘いをやってきた。しかし、いつもの相手と違った。カネロの計算違いはゴロフキンの思っていた以上に威力のあるパンチだった。
ラウンドを追うごとにゴロフキンが有利になっていく。カネロは下がってはダメだった。それに気づいたのは9ラウンドあたりではなかったか。
追い詰めるのはゴロフキンのリズム。そのリズムを壊すには、持ち前の体力で踏みとどまり、打ち合うべきだった。それをしなかったのは、カネロに恐怖があったのか、それとも万が一、パンチが当たってしまうというリスクを避けたのか。
12ラウンド、カネロはようやく中央で打ち合いに出た。しかし、時すでに遅し。ゴングが鳴ってしまった。
二人とも両手を挙げて勝利をアピール。しかし、会場の客は誰が勝利者かわかっていた。GGG(トリプルG)だと。しかし......採点はドロー。その瞬間カネロのホームだったはずの会場からまさかのブーイング。世界ボクシング界の新カリスマの誕生は叶わなかった。ベルトはゴロフキンの物だった。両者はともに再戦を望んでいる。特にカネロはそうだろう。カネロの方がこの試合で失ったものは多かったからだ。(関根高広)
≪参考資料≫
2017 世界ボクシングパーフェクトガイド (B・Bムック) ムック
再戦必至
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