佐世保で起きた殺人事件に関して、またもアニメ・マンガの影響をほのめかす報道が垂れ流されている。例えば、NEWSポストセブン(女性セブン) にはこのような記事が掲載された。
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■高1殺害容疑者に「過去の事件やアニメなどの影響の可能性」
(http://www.news-postseven.com/archives/20140801_268639.html)
(前略)
逮捕されたA子とは中学からの同級生で、アニメ好きという共通点もあって親しかったといわれる一方で、学校側はこんな見解を示してもいる。
「そんなに親しかったのかはよくわからない。親しくなくても家を訪れることはあると思うんですよね」
A子の松尾さんに対する凶行に強い憎悪を感じるというのは、医師で作家の米山公啓氏だ。
「一般的に感情が高ぶって相手を殺すってことはあっても、相手を切断するってことはよほどのことがないかぎりなかなかそこまではしないでしょう。被害者への一方的な嫉妬や恨みを募らせ、計画を立てたのかもしれません。猟奇的な側面は、過去の事件やアニメなど、残虐なものの影響を受けた可能性が高い」
(後略)
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また、この事件の余波でTVアニメが放送中止に追い込まれる事態にも発展しいている。フジテレビ系で放送中の 「PSYCHO-PASS サイコパス」 の第四話がそれだ。
この放送中止の決定を受けて、監督の塩谷直義氏が自身のTwitterで謝罪。するとファン以外からも「監督が謝る必要なんかない」と、応援とも受け取れるメッセージが殺到した。
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「PSYCHO-PASS サイコパス」とは
(http://www.fujitv.co.jp/b_hp/psycho-pass_new/)
人間の心理状態や性格的傾向が全て数値化され、管理されている未来世界。罪に関する数値も"犯罪係数"として計測され、犯罪者はその数値によって裁かれる。
「PSYCHO-PASS サイコパス」は、そんな世界で治安維持にあたる刑事たちの活躍と葛藤を描く。
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この作品の第四話は、テーマが女子高生による猟奇殺人事件となっており、タイミングが悪すぎた為に苦渋の決断を強いられたようだ。
こうした事件が起きた場合にアニメが放送中止または自粛に追い込まれるケースは少なくなく、例えば2007年に京都で起きた少女が父親を斧で殺害するという事件の際には、「School Days」と「ひぐらしのなく頃に」の2作品が放送を自粛した。
どちらも少女が刃物でひとを殺害する描写があったためで、この事件当時もマスコミらは口を揃えて「アニメが~! ゲームが~! マンガが~!」と連呼していたが、少女の自供によると斧を選んだのはアニメ等の影響ではなく「ギロチンを連想した」のだそうで、アニメやマンガの描写を見て思いついたという訳ではなかったようだ。
また動機も「父親の女性関係に強い嫌悪感を抱き続けていたため、ギロチンにかけようと思った」そうで、こちらもアニメなどの影響はあまり関係がなさそうだ。
父親の女性関係といえば、今回の佐世保の事件でも似たような話が漏れ伝わってきているが、多感な時期の少女の心が闇に囚われるような悪影響を与えているのはいったい誰なのだろうか?
京都の事件も佐世保の事件も、両方とも「父親の女性関係」「家族関係の崩壊」が根底にあると考えるしかないのだが、それらがアニメの影響なのだろうか?
仮に何かに影響を受けた事件だというならば、不倫がテーマのドラマ・映画・報道番組などを見た父親が「一国一城の主たるもの複数の女をはべらせないと!」と考えたという線の方がまだ可能性がある。
であるならば、「子供への直接の悪影響」ではなく「子供が凶行に走るキッカケを作る大人への悪影響」を考慮し、不倫だなんだといったドロドロした内容のテレビドラマや、芸能人の不倫騒動が大好物のワイドショーなどの方を規制すべきだ。
また「子供への直接の悪影響」という点でも、最も深刻なのはこのような事件を何度も何度も繰り返し放送し、視聴者の頭に強烈な刷り込みを行うワイドショーの類である。ワイドショーがこの手の事件をウハウハ言いながら放送し続ける限り、それに影響される模倣犯はなくならないだろう。
ワイドショーに出演する自称識者の皆様が、本当にこの手の犯罪を抑制したいと考えているならば、真っ先に放送を中止すべきは金(数字)が取れればひとの生き死になどお構いなしの低俗なワイドショーである。
Written by 荒井禎雄
Photo by Shuji Moriwaki
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