90年代終わりに登場した「格差社会」なる言葉は、ここにきてすっかり定着した感があるが、表社会に格差があるならば、裏社会にはそれ以上の厳然たる格差が存在していると言える。先日、こんなニュースを目にした。
≪振り込め詐欺グループに少年を紹介、ピンハネ≫
警視庁は18日、振り込め詐欺グループに現金引き出し役の少年を紹介したとして、東京都八王子市諏訪町、設備工小山内友涼容疑者(20)を詐欺容疑、犯行当時16~19歳の少年7人を詐欺や窃盗容疑でそれぞれ逮捕したと発表した。(中略)
少年らは(中略)小山内容疑者から複数の詐欺グループに紹介され、コンビニ店の現金自動預け払い機(ATM)などから引き出した金の3~5%を報酬として受け取り、その半額を小山内容疑者に渡していたという。
(2013年7月18日 読売新聞)
振り込め詐欺の世界では、「出し子」「受け子」という現金をATMから引き出したり、被害者から直接受け取る者が最下層に置かれているが、その「出し子」の報酬をピンハネしていたのである。
逮捕のリスクが高い出し子から更に搾取するのだから、詐欺の運営側の悪辣ぶりは推して知るべしである。「店長」などと呼ばれるグループの運営者や、電話をかける「役者」、そしてその背後にいるケツ持ちの人間たちは逮捕されるリスクも少なく、危険な仕事は「なにもわかっていない」若者たちにやらせている状況である。
わたしの友人で、振り込め詐欺に関わったとして逮捕された者がいる。
彼は「店長」でも「役者」でも「出し子」でもなく、振り込め詐欺に使用する銀行口座を作った罪に問われた。詐欺を行う際に必要とされる、三種の神器として、勧誘用の「名簿」、身分を隠すための「飛ばしの携帯・レンタル携帯」、だまし取った金を振り込ませる「口座」がある。ちなみにこの口座は裏社会では「板(イタ)」と呼ばれ、数万円で取引されている。
わたしの友人――仮にTとしておく――は、この板を作り、詐欺グループの人間に譲り渡した罪で逮捕された。
グループの人間と出会ったのはネット上の掲示板で、金に困っていたTはおいしい儲け話があるという書き込みにつられ自ら接触したというから、自業自得である。
Tは、複数の銀行口座を作り、グループの人間に渡した。興味深いのは銀行によって、口座の作りやすさ、利用のしやすさなどに差があり、買取価格も一律ではないということだ。ゆうちょ銀行、三井住友信託銀行は4万円という高額で買い取りがなされたが、みずほ銀行、りそな銀行などは2万円での買い取りだったという。
Tは自分の渡した口座が詐欺に使われているということを自覚せず、ただの小遣い稼ぎだと思っていたようだが、そのままでいられるはずがない。後日、Tの家に銀行から、口座が不正使用されている疑いがあるという旨の通知書が届いた。
なんの危機感も持たず、のこのこと銀行に出向いたTは係の人間に少々お待ちくださいと告げられ、椅子に座って待つこと約20分、2名の私服警官が現れ、御用となった。
Tは、詐欺のことなど知らない、小遣い稼ぎのためにやっただけだと供述したが、そんな主張が受け入れられるはずもなく、起訴。懲役2年執行猶予3年の判決を受けた。
彼は警察の調べに対し、自らと関係を持っていたグループの人間について詳細を語り、その後、グループの人間は家宅操作を受けたが、家からはなにも出ず罪を問われることもなかったという。
わずか数万円の金を得るために甘い囁きに乗り、有罪判決を受けたT。その反面、Tをそそのかした男は不問に付され、今も悠々と過ごしている。もちろん、その背後には更に巨額の金を得ている者がいて、その者からすればTの逮捕など、取るに足らない出来事に違いない。
Tのように、ほんの数万円を得るために犯罪に手を貸す人間がいる以上、振り込め詐欺はなくならない。犯罪は、貧困の厚みから日々生み出されている。表の格差社会が進めば進むほど、裏社会でも同様のことが進行していると考えたほうがよさそうだ。
と、ここまで書いてきて思い出したが、最近、詐欺の名称が「振り込め詐欺」から「母さん助けて詐欺」に変わったんだった。なんつー、ネーミングセンスだ。
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Written by 草下シンヤ