今回は振り込め詐欺グループのヒエラルキーを取り上げてみたい。
グループの順列は、①「ケツ持ち(複数のグループの面倒見)」、②「店長(1つのグループのリーダー)」、③「役者(電話をかける人間)」、④「出し子・受け子」となっていることが多い。また、④の「出し子・受け子」は詐欺グループのアジトとなっているマンションなどの場所を知らされていないため、彼らから金を受け取り、アジトに届ける「運搬」という役割もある。
このヒエラルキーは厳然とした階層に別れており、①「ケツ持ち」と④「出し子」が喫茶店でお茶をしながら最近ハマっているドラマの話をしている光景などは考えられない。これはもちろん「出し子」が逮捕されたとき、上にまで累が及ばないようにするための措置である。
では、それぞれのポジションの人間はどれだけ稼いでいるのか?
わたしは以前、②「店長」に取材をしたことがある。
店長は二十代後半の若者で、身体の線は細いものの、日焼けをしていることは前回紹介した「ケツ持ち氏」と同様で、髪の毛を逆立てたギャル男のような風貌であった。どうも最近の裏社会の面々は日サロ率が高すぎる気がするが、黒いと強く見えるものなのだろうか。
この店長は、以前、闇金の店舗を持っていたが、五菱会事件後、警察の締め付けが厳しくなったことを受けて、詐欺の世界に流れてきたという。
彼は5、6人の役者と、複数の出し子を使い、振り込め詐欺グループを運営していたが、調子が良いときは1500万円以上のアガリがあるという。
取り分については言葉を濁し、テーブルの上でせわしなく指の数で示す形でしか教えてくれなかったのだが、「ケツ持ち」が3割、「店長」が3割、電話をかける「役者」が2割、「出し子」とその金を運んでくる「運搬」が合わせて1割ということのようだった。全部足しても9割にしかならない。
「残りの1割は?」
「運営費が結構かかるんですよ。家賃、光熱費、あと、レンタル携帯、板、名簿でしょ。だからそんなに儲からないですよ」
そう語る店長の表情には余裕が見える。そんなに儲からないと言いながら、1500万円のアガリがあれば、自分の取り分は450万円。しかも、納税意識のない彼らだ。金はまるまる懐に入る。一文字一文字をこうしてポチポチとタイピングしながら日銭を稼いでいるライターからすると、とんでもない話だ。
「あの......ちょっとわたしも」
などとは言わないが、将来に希望も目的も持てない若者たちがこの業界に身を投じていく背景には、逮捕や裏社会の人間と接点を持つリスクさえ覚悟すれば高収入を見込める事情があるからだろう。
しかし、店長はたまに気が弱くなるときがあるという。
「こういう仕事してると疑心暗鬼になりますよ。タタキの存在も怖いし、今、もっていかれたら10年以上は食らいますからね」
眉をひそめて言うが、彼以上に暗澹たる気持ちになるのは騙された被害者のほうなのだから同情する気にはなれない。その後、インタビューを続けていると、彼はヒエラルキーの上部に位置するケツ持ち、そしてその背後にいる暴力団員にはなりたくないと言った。
「そこまでいくといろいろ面倒ですから。このポジションでいいんです」
最近、裏社会に足を踏み入れながらも暴力団員にはなりたくないと明言する若者が増えている。改正暴対法や暴排条例の影響で、今や暴力団員は「人ではない」扱いを受けるようになった。銀行口座を作ることができず、マンションを借りることもできず、身分を隠してゴルフをすれば詐欺罪で捕まる......。これでは利に聡い現代の若者が暴力団員を敬遠することも当然のことだ。
「でも、そのポジションがいいと言っても、そんなに簡単なものじゃないでしょう?」
わたしの言葉に、彼は平然と答えた。
「上にも気に入られているし、大丈夫ですよ。うまくやっていきますよ」
経済状況が逼迫した裏社会において、満足な上納をしていたり、利用価値があれば、その人間は大切にされる。しかし、無価値と見なされた瞬間に、これまで自分を守ってくれていると思っていた身内に食い散らかされることは珍しくない。そのような事例はこれまでに数限りなく見てきた。
彼の呑気な発言に一抹の不安を覚えたが、自ら選んだ生き方だ。わたしがとやかく言うこともあるまい。
「また、聞きたいことがあったら聞いてくださいよ」
その言葉を最後に彼と別れた。
本原稿を書くにあたって久しぶりに電話を鳴らしてみた。
「おかけになった電話番号は現在――」
だと思った。
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Written by 草下シンヤ
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