先日、「モリのアサガオ」「きらきらひかる」などの作品で知られる漫画家の郷田マモラ氏が、知人女性にボールを投げつけた上、わいせつな行為をしたとして逮捕されたのは記憶に新しいところだが、わたしがこのニュースで注目していたポイントがある。
それは検察が氏に何年求刑するだろうかというものである。
一般的にはあまり知られていないが、求刑の段階で、執行猶予がつくかどうかだいたい想像することができる。8月15日のANNニュースでは次のように報じられた。
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死刑制度をテーマにした漫画「モリのアサガオ」などの作者として知られる郷田マモラ被告(50)は今年4月、東京・国分寺市の事務所で、知人の女性にわいせつな行為をさせた罪などに問われています。20日の初公判で、郷田被告は「作品が描けず、ストレスやプレッシャーを感じていた。被害者に申し訳ない」と述べました。検察側は「自分の性欲やストレスを発散するために犯行に及んだもので、身勝手極まりない」として、懲役3年を求刑しました。
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「求刑3年」という部分を見て、「これは執行猶予だろうな」と感じた。裁判所で下される判決は求刑の7、8割と相場が決まっている。そして執行猶予がつく最長の刑期は懲役3年であり、「懲役3年 執行猶予5年」というのが、執行猶予のリミットとなっている。つまり、3年が求刑された時点で、懲役は2年数ヶ月、そしてその刑期であれば、執行猶予がつくと推測されるのだ。
ただし、取調べで黙秘を続けていたり、詐欺などの犯罪で被害者に賠償をしなかったりすると情状酌量の余地がないと判断され、懲役3年を下回ることがあっても実刑になることが多い。また、暴力団員や、過去に同一の犯罪をしている累犯者などは、刑期の長さに関係なく、だいたいが刑務所送りになる。
このような事情があるため、求刑3年程度が想像される犯罪で逮捕された場合、目端が利く者などは「ここは黙秘で心証を悪くするより、認める部分は素直に認めて執行猶予を狙ったほうがいい」と判断し、積極的に供述に応じたりする。
しかし、微妙なのが「3年6ヶ月」が求刑されたときだ。こういったケースでは奥さんなどに情状証人になってもらい、「子どもが生まれたばかりで一家の大黒柱を失ってしまっては途方に暮れてしまいます。主人も深く反省していますので、どうか寛大な処置をお願いします」とハンカチで涙を拭いながら訴えれば、更正の可能性が高いと判断され、執行猶予を勝ち取ることができるかもしれない。そして、弁護士「裁判ではこんな調子でお願いします」奥さん「わかりました。どうしようもない夫ですけど、がんばってみます」などというやり取りをしている映像も浮かんでくる。
「求刑4年」になると、執行猶予がつく可能性はかなり低くなるから、「4」という数字を聞いた瞬間、相場を知っている被疑者の顔からは血の気が引くという。
判決が出ていない段階で軽卒なことは書けないが、今回の裁判で郷田マモラ氏には執行猶予つきの判決が下されるだろう(※当原稿執筆後、懲役3年執行猶予3年の判決が言い渡された)。
たとえば、「被告を懲役2年6ヶ月に処す」という判決が出たとして、被疑者が息を呑むのは次の瞬間だ。「ただし......」と始まれば、「刑の執行を4年間猶予する」と続くだろうし、無言のままならば、再び手錠がかけられ、刑務所へGo!である。
これまでにも「死刑」「冤罪」などの社会問題を扱った作品を発表し続けてきた氏である。判決のいかんに問わず、ぜひ今回の経験を新たな作品に活かしてほしいものだ。
そして読者のみなさんにおいては、今後、事件報道に触れるときに、求刑が3年以下かどうかに注目してみると面白いだろう。特に求刑3年6ヶ月のケースは判決がどちらに転ぶか分からないエキサイティングなものになることは請け合いだ。
しかし、興が講じて友人と「執行猶予つくか? つかないか?」なんて高額のトトカルチョを開いたりすると、懲役3ヶ月~5年の賭博開帳図利罪に問われ、自分自身に「執行猶予つくか? つかないか?」というエキサイティングすぎる思いをするかもしれないので、その点はくれぐれも注意していただきたい。
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Written by 草下シンヤ
Photo by モリのアサガオ―新人刑務官と或る死刑囚の物語/双葉社