客引き条例から1ヵ月...新宿歌舞伎町の違法キャッチ、儲けのからくりに迫る

2013年10月09日 ぼったくり 歌舞伎町 繁華街

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 前回に引き続き、今回は客引きの具体的な仕事内容について尋ねた。答えてくれたのは3年ほど前まで新宿区役所近辺でキャッチをしていた青白い顔に薄気味悪い笑みを浮かべながら話すアルバイト生活者のT君(25歳)である。

【前回記事】
条例施行から1ヵ月、摘発が続く新宿歌舞伎町の違法客引き「月に500万稼ぐ人も」

 キャッチは完全な自由業であるため、収入は完全歩合制である。よって、勤務時間が拘束されることはなく、18〜19時頃街に出て、終電を少し回った時間ぐらいまで通行人に声をかけるというのが基本的な流れになる。

 客が求めているものによって勧める内容は異なるが、浅い時間帯はキャバクラ、遅い時間になると、オッパブやデートクラブ、ホテヘルなどの風俗がメインになる。

 時には、1人の客が複数の店をハシゴしてくれることもあり、客引きとしては、こういったケースが非常に美味しいという。T君が実際に紹介した一連の流れを追いながらキャッチの仕事を見ていこう。

 T君は年の瀬の21時頃、ほろ酔いのサラリーマン客をつかまえた。「かわいい子いますよ」と声をかけると、「ホントなのー」と言いながらT君と歩みを合わせてくる。

 T君がまず紹介したのはキャバクラだった。客はボーナスが出たのか羽振りがよさそうだったため、プチぼったくりの店に連れていった。

 キャバクラの場合、客引きに入るのは、店との契約にもよるが、税金抜きの小計の3割が相場だという。同じグループの人間が同日に5人以上を紹介した場合などはその取り分が4割に上がるなど、細かい取り決めがあるようだ。

 T君としては少しでも客に小計を上げてもらい、自分のバックを多くとりたい。そこでT君が紹介したのは、客が席につくと同時に女の子がお酒を持ってくる店だった。「失礼しまーす」と言いながら隣に座ったキャバ嬢が持つドリンクも当然客の支払いに入っている。ここで文句を言う客(業界では「わく」と言うらしい)もいるが、この店はかわいい子が揃っているので客も、まあいいかとそのまま飲むことを許すらしい。

 とはいえ、身ぐるみをはぐわけではない。T君が紹介した客は90分で2万円ほどを店に落とした。

 その後、T君がこの客を紹介したのはオッパブ。

 オッパブというのは女の子が男に対面になってまたがり、男はキスをしたり胸を触ったりすることができるという、中学生がするような妄想を現実にかなえられる店のことだ。

 オッパブの場合、店への支払いは8000円。つまり客との交渉が1万円でまとまれば2000円が、1万5000円ならば7000円がキャッチの懐に入る。この客は一軒目のキャバクラで出来上がっていたこともあり、1万5000円の条件で店に入った。

 しかも、オッパブをやけに気に入ったのか、同じ条件でハシゴをしたというからキャッチにとってはありがたい客である。

 この後、T君は選択に迫られることになる。

 客をもう一度キャバクラにつれていき、金を使わせるのもいいが、どうもオッパブで下半身が熱を持ってきているようだ。そこで選択肢は「ホテヘル」か「中国人デートクラブ」の2つになる。

 ホテヘルというのは、風俗嬢を派遣しホテルでサービスを行なうものであり、風営法の取り締まりが厳しくなり、箱ものと呼ばれた風俗がほとんど絶滅した現在は主流の風俗形態である。客引きは複数のホテヘル業者と契約をしており、「魔境レベル」「そこそこレベル」などのカードを持っている。

 身体が非常にファットだったり、お年をちょっとめしていたり、見るにたえない風貌だったりする「魔境レベル」の店の場合、店への支払いは4000円、それと別に客がホテルに支払うのが3000円である。

 つまりキャッチとしては客が最低限支払う7000円にどれだけ載せたかが取り分になるわけだ。そして風俗嬢は店に入った4000円の中から半額程度を報酬として受け取るのだが、それではあまりにも少ないので、ホテルの中で「あと1万円で本番いいよ」と交渉をすることになる。

 それに対して「そこそこレベル」は店への支払いが8000円、ホテル代は同じく3000円だから、1万1000円にどれだけ載せたかがキャッチの利益となる。

「魔境レベル」は客がよほど変わったパーソナリティを持っていないと満足することはないらしいが、交渉の段階では当然「かわいい子いますよ」と客引きは話すわけであり、1万5000円で話をまとめてしまえば、自分には8000円が入る。よってべろべろになった客を「魔境レベル」の店に投入するのが客引きにとっての仕上げになるという。

 このときのお客さんはいい人そうだったので、T君は少し悩んだ。同じ1万5000円をもらうとして「そこそこレベル」を紹介すれば、自分の取り分は4000円になる。このお客さんはいい人だ、お金もたくさん使ってくれた、何度も自分を指名してくれた......うん、よし、決めた!

 というわけで、「魔境レベル」を紹介したという。長期間、客引きで稼ごうとする者は馴染みの客を作るため、満足のいく店を紹介するようだが、ほとんどの客引きは目の前の数千円に目がくらんでしまうようだ。

 この一連の流れでT君がどれだけ稼いだのか計算してみよう。

 まず、1軒目のキャバクラで客が使った金額が2万円。T君にはそのうちに3割、6000円が入る。2軒目、3軒目はいずれもオッパブで客はともに1万5000円を支払い、T君にはそれぞれ7000円が入った。そして仕上げのホテヘルで客は1万5000円を支払い、T君には8000円が入る。締めて「6000+7000×2+8000」で2万8000円の儲け。

 もちろん、この客だけではなく、他の客にも同時に声をかけているから日給としてはかなりのものになる。

 そしてこの日、T君がつかまえた客が支払ったのは総額6万5000円。さんざん遊んでおいてこれが高いか安いかは人の感覚によるだろうが、「魔境レベル」のホテヘルで締めたことを考えると、その夢が悪夢に変わっていないことを願うばかりである。

 さて、客引きが仕上げに使うのは、このホテヘルとは別に「中国人デートクラブ」というものがある。キャッチの間で「チャイ」と呼ばれているデートクラブとはいかなるものなのか。

 デートクラブというのは、表向きはキャバクラのように経営をしているが、女性と会話を楽しむためのものではなく、「連れ出す」ことを目的につくられた店のことである。歌舞伎町に3店舗ほどあるようだが、働いているキャストに中国人が多いことから「チャイ」と呼ばれているという。

 デートクラブの場合、「飲む」ことではなく、売春の交渉をし「連れ出す」ことを目的としているため、女性たちは非常にけだるい雰囲気を醸し出している。そして隣に座ると耳打ちをしてきて「2万5000円で本番ね、外に行こう」などと囁く。

 こちらがそんな店と知らずに入店してしまい、「いや、楽しく飲みたいんだけど」と言っても、「飲むのつまらないよ、外行こう」と繰り返すだけでまったくかみ合うことがない。女性を買いたい人にとってみれば好都合だが、目的違いで入店してしまった客にとってみれば居心地の悪い場所だ。

 客引きが中国人デートクラブに支払う料金は2000円。つまりこれに載せた金額が取り分になるわけで、「かわいい女の子を連れ出せるお店がありますよ、2時間飲み放題で8000円、あとはお客さんの腕次第ですよ」などと囁いて入店させることになる。

 警戒心のない客や鼻の下をのばしている客などからは、2時間飲み放題で3万円をとることもあるようだから、騙すほうもひどいが、騙されるほうにも呆れてしまう。もちろん、女の子を連れ出したい場合は、2〜3万円ほどの料金がかかる。

 歓楽街としてはここ10年ほど魅力を失い続けている歌舞伎町だが、夜な夜な欲望と金も巡る攻防戦は繰り広げられているのだ。

 T君はすでに3年ほど前に客引きをやめているが、警察の取り締まりや条例などが厳しくなる中、やはりキャッチの数は減っているという。今後、東京オリンピックに向けて、ますます浄化という名の規制は進み、さらに客引きを巡る事情は厳しくなっていくだろう。

 客引きが警察につかまった際にする言い訳は「一緒に飲もうと思って、飲みに誘っただけですよ」というものらしいが、それも徐々に通用しなくなっていくに違いない。

 世の流れとはいえ、街の風物詩でもあった客引きが減っていくさまには一抹の寂しさを感じる。わたしは新宿によく飲みにいくが、昔のようにギラギラとした生命力に溢れた光景はなりをひそめ、夜はホストばかりが立ち尽くす味気ない街になってしまった。

 取材に答えてもらったT君を新宿に飲みに誘ったが、彼は青白い肌に薄気味悪い笑顔を浮かべて「今日はバイトがあるので帰ります」と言った。

<草下シンヤ『ちょっと裏ネタ』連載11>

Written by 草下シンヤ

Photo by Salvatore Vuono

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歌舞伎町のこころちゃん

7年ですっかり浄化されてしまうんでしょうか?

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