元『噂の真相』編集長・岡留安則の「編集魂」
安倍政権が樹立されて1年8か月が経過した。一強多弱といわれる自民党は政権基盤の圧倒的優位性をフルに生かして、タカ派の安倍イズム路線を次々と打ち出してきた。集団的自衛権行使に向けた解釈改憲も来春には法案を整備し、実現に向けて動きだそうと準備中だ。日米軍事同盟の強化とともに、特定秘密保護法や武器輸出三原則の解禁にも着手している。安倍イズムの狙いは、戦後史の清算であり、自立した軍事大国化への途である。
さらに、原発再稼働や消費税の10%への再増税やTPPでの関税撤廃や制限緩和も水面下で着々と進行している。法人税の引き下げに代表されるように、大資本への優遇、弱者切り捨ての策謀も進行している。ようするに、安倍政権はこれまでの自民党政権が手をつけなかった分野まで土足で踏み込むような政治手法を駆使している。
安倍政権のシンクタンクともいうべき官邸の機能も拡大強化されている。安倍政権のやり方は日銀総裁や内閣法制局といった国の根幹を決める人事を恣意的に配置する。さらに、自らの政策を実現させるために、仲間内で固めた有識者会議を立ち上げて素案を作り、閣議決定で方向付けを急ぐ。後は一強多弱の数の論理で法案化を図る手法だ。まさに安倍政権お得意の専制政治で、独裁政治と寸分変わらないやり口だ。
だが、この安倍政権の盤石と思われた政治手法にも陰りが見え始めた。安倍政権の支持率が低下傾向を見せ始めているからだ。これまで安倍政権に対する批判を控えてきたメディアも徐々に批判を開始した。官邸を中心にしたメディア懐柔対策が強引すぎるためにメディア側が反発を持ち始めたこともあるだろう。
むろん、広島・安佐南区の土砂災害の日にも山梨でゴルフをやっていた件や、演説草稿をコピペして流用していた事実も発覚した。歯科医通いがあまりにも頻繁なために潰瘍性大腸炎をおさえるための特効薬のステロイドによる副作用説も囁かれている。
そんな中、安倍政権は9月第一週に内閣改造を行う方針を打ち出した。幹事長職を外されることが確定的になった石破茂氏が、安全保障法制担当大臣への移動に難色を示したことで、これまで表面化しなかった安倍総理と石破幹事長の来年に予定される総裁選に対する思惑が明らかになった。
一枚岩に見えた安倍内閣に遂に亀裂が入った感じだ。女性閣僚を5人に増やす方針を打ち出していたが、橋本聖子議員によるフィギュアの貴公子・高橋大介へのキス強要が「週刊文春」にスクープされたことで、安倍構想の一角が崩された。しかし、石破幹事長が無役になる決断ができるかどうかの結論は党役員人事や組閣まで待つしかない。次の自民党総裁選まで一年がある。出たがり、しゃべりたがりの石破幹事長が、メディア報道やテレビ出演のない立場に一年近く耐えられるかどうかも疑問だ。
石破氏が幹事長職を追いやられることになった理由の一つは選挙を仕切る幹事長としての能力に疑問符がついたことだ。滋賀県知事選の敗北も大きいだろうが、沖縄では石破幹事長に対する評価はかなり低い。
今年一月の名護市長選挙でも、辺野古推進派の保守系候補に500億円の基金を提供するとぶちあげて、名護市民の反発を買った。結果、保守系候補は敗れ去り、辺野古新基地建設に反対する稲嶺進市長が再選された。昨年末に辺野古埋め立ての承認を取り付けた仲井真弘多知事に対しても、辺野古に反対していた自民党沖縄県連や沖縄選出国会議員に除名を示唆して転向を迫り、周辺を強権力で固めるという石破幹事長のやり口に対する反感も強い。安倍総理の強権力行使は大前提にしても、現場で恫喝を行使したのは石破幹事長である。
その結果、石破幹事長は不人気の仲井真知事を推薦せざるを得なくなった。石破幹事長は支持率の低い仲井真候補を変える方向を打ち出していたが、自民党沖縄県連が自主的に仲井真知事を候補として容認したために、結果的に追認せざるを得なくなったのだ。石破幹事長の政治力や根回しの能力に疑問符が付いたのだ。県知事選は今年の11月だが、対立候補の翁長雄志那覇市長に大差をつけられるのではないかと予想されている。
沖縄の地元紙「琉球新報」は独自の世論調査を実施したが、辺野古新基地建設中止を求める声が80%に上り、安倍政権の不支持率は81・5%と出ている。石破幹事長は沖縄県知事選の責任を問われる前に勇退する方が正解だろう。すべての責任は安倍政権が取るしかないのだ。長期政権を狙う安倍政権は外交政策でも失敗続きで、潰瘍大腸炎が再発する前に撤退した方が本人のためにもいいと提言しておきたい。
Written by 岡留安則
Photo by ralph_rybak
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