元「噂の真相」編集長岡留安則の「編集魂」
「イスラム国」に拘束され、ネット上で殺害予告を出されていた日本人人質二人、湯川遥菜さんと後藤健二さんが最悪の事態で「処刑」された。この事件に関しては、日本政府もヨルダン政府も、アンマンの日本大使館に置かれた対策本部からもほとんど情報が出されなかったこともあり、いまだに真相は解明されているとは思えない。
にもかかわらず、日本の安倍総理、米国・オバマ大統領、フランス・オランド大統領、イギリス・キャメロン首相らは口を揃えてイスラム国の非人道的行為を激しく断罪し、テロには屈しないと語気を強めてコメントした。そのこと自体はイスラム国への空爆や戦いを続けてきた有志国としては当然のプロパガンダだろう。しかし、こうした不満や憤りをぶつけるだけでジ・エンドとはならないだろう。米国はイスラム国の解体まで戦うと宣言しており、日本政府もイスラム国と闘うために、人道支援や民生支援をさらに追加する意向を示している。しかし、イスラム国にしてみれば、日本の支援金が軍事面ではなく、人道支援に供出されるかどうかの判断は難しい。
●テレビはどうでもいいようなコメンテーターを出演させ、憶測や推測、仮説を連発
今回の日本人二人の拘束の動画が配信された時、イスラム国は安倍総理がカイロで演説したイスラム国の周辺国に2億ドルの支援を申し出たことを逆手にとって、日本人二人の解放の条件として2億ドルの身代金を要求した。今回の安倍総理の中東訪問も安倍総理が外務省に希望して実現したものといわれている。
その後、身代金2億ドルはイスラム国が撤回したが、この安倍総理の支援金提供の申し出がイスラム国を大きく刺激したことは明らかだろう。その後、安倍総理がイスラエルで行った記者会見の場にはイスラエルの国旗が飾られていた。イスラム教徒にすれば、宿敵・イスラエルの国旗の前での記者会見は不愉快だったのではないか。いずれにしても、安倍総理の外交センスのなさが露呈したともいえる。イスラム国は十字軍に参加した日本を敵国とみなし、世界各地の在外日本人の生命が脅かされることになるだろう。安倍総理がいくらテロには屈しないと啖呵を切っても犠牲になるのは罪のない民間の日本人である。
入国管理を強化したり、沿岸警備を強化しても、世界中に散らばる日本人の生命、安全を保障するのは至難の技だろう。オリンピック開催も待ち受けており、日本には原発や米軍基地が存在しており、予想外の危機を招く可能性もある。すでに、安倍総理は集団的自衛権行使に向けて、安保法制で具体的に踏み込む方針を打ち出している。最終的には米国とともに、地球の裏側でも軍事的な連携を強めようとしている。これまではイラク、アフガン戦争においても、日本は憲法9条の縛りがあったため、米軍と軍事的な一体行動をとることはなかったが、イスラム国問題で一線を踏み越えた安倍政権は、新たな国際的脅威に直面することになる。昨年12月の解散総選挙で安倍政権に安定過半数を与えた日本国民もその責務を負わざるを得なくなる。
今回の人質事件で、安倍政権に対する批判を控えるように内示を出した日本共産党の動きもあった。産経新聞はシリアに入国して取材を敢行した朝日新聞に批判的な記事を掲載していた。ただでさえ、今回の人質事件は情報がないことで、テレビもどうでもいいような中東調査会や元外務省職員らのコメンテーターを出演させ、事件の本質ではなく、憶測や推測、仮説を連発していた。国民が知るべき情報がなく、政府のコメントだけがメディアを支配すれば、真実は見えなくなる。昨年12月10日に施行された特定秘密保護法が実質的に機能しているのではないかという危惧も感じられる。
何事も情報と真実が入手できなければ、次の有効な手立ては打てない。二人の日本人は昨年8月と10月に拘束されているのに、日本政府はどういう動きをしたのか。ヨルダン政府は女性死刑囚をなぜ解放しなかったのか。イスラム国はヨルダン人パイロットをなぜ解放しなかったのか。他にシリアで拘束されている日本人はいないのか。
そして、何よりも、イスラム国はイラク戦争の中からどうやって国家指向の組織を結成したのか歴史的な検証が必要だろう。中東事情は複雑だ。テロ組織の解体を叫んでも、その歴史的経緯まで検証しなければ、真の解決の途は見通せないはずだ。貧困と差別に国際的な政治力学が絡んでいるのが、中東の真相なのだ。そのためにも、現地の情報を絶えず入手する途は開かれているべきなのだ。二人の日本人犠牲者の死を悼むと同時に、中東のマクロ的な分析が急がれるところである。
Written by 岡留安則
Photo by Kevin Cortopassi
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