『従業員に過酷な労働をさせているとの週刊誌の記事などで名誉を傷つけられたとして、「ユニクロ」を運営するファーストリテイリングなど2社が、文芸春秋に計2億2千万円の損害賠償などを求めた訴訟の判決で、東京地裁(土田昭彦裁判長)は18日、ユニクロ側の請求を退けた。』(10月19日 日本経済新聞)
これを受けて 「ユニクロはやっぱり『ブラック企業】」という見出しが先週の週刊文春(10月31日号)に躍った。
もともとユニクロが問題としたのは、2010年の週刊文春の記事と、11年出版の書籍「ユニクロ帝国の光と影」。
たしかに「ユニクロ帝国の光と影」(横田増生)はおもしろかった。過酷な労働環境や息が詰まりそうな人間関係には読みながら緊張した。
しかし社長の柳井正について、
「財務的には盤石であるにもかかわらず、柳井がこうした強烈な危機意識を持っていることが"カリスマ経営者"と呼ばれている理由のひとつなのだ」とかいくつも例を書かれると、読者は柳井のエネルギッシュさに逆に目が行くのだ。作者の意図とは別として。
正直に言おう。私は、「宇部の一介の小売業者にすぎなかったユニクロが、大きく飛躍したのは、製造から小売りまでを一気通貫で持つSPAへと、90年代に変貌をとげたからだ」(第二章)あたりは、ちょっとワクワクしながら読んでしまった。現代の立身出世物語に。
でも、
「柳井さんには、自分の中にあるコンプレックスというか、こんちくしょうみたいな感情をバネにしてビジネスに取り組んできたところがあるように見えました。あまり見た目が良くないとか、背も高くないとか含めて」などと身近で働いていた人物に恨み骨髄で証言される柳井の「覇気」には、やはり安全圏で読んでる立場が正解だと思い直す。
たぶん成り上がりの柳井氏からすると過酷な労働時間、サービス残業と言われても「?」と思うのかもしれない。そのエネルギッシュさは特殊で、苦にならないのは柳井しかいないのではないか。
そんなことを本屋のイベントで先日話したら、共演者である「ネットワーカー・みち」(毎日5000サイトの情報をチェックしている)が、「ユニクロ以上の"24時間眠らない社員"が最近話題です」と言いだした。
へ?
驚くことにその企業はHPで社員が「24時間眠らない」「働き続ける」ことを売りにしているという。動画も公開しているらしい。とんでもないブラック企業ではないか!
じつは、その「社員」はロボットだった。
その社員が働くのは「刀削麺荘 唐家 錦糸町店」。刀削麺の、文字通り麺を削る作業を担当するロボットがいる。けっこう話題だというので先週の土曜に潜入してきた。
本来なら夜は17時30分から開店なのだが17時すぎに行っても店内に入れてくれた。「ちょっと待ってね。準備するから」というのでビールを飲んでのんびり待つ。
厨房の奥に「ロボット社員」は確かにいた。胸にはカラータイマーがついている。いよいよ麺を削り始めた!無駄のない動き。味もおいしい。
ロボットだから24時間働き続けているかと思ったら、私は貴重な時間を目撃していたのだ。
そう、夜の部が開店するまでロボットは休憩していたのである。17時30分きっかりにカラータイマーが赤から青に点滅し作業を始めたのだ。ちゃんと休憩時間を与えられていた。
「24時間眠らない社員」が売りの「刀削麺荘 唐家 錦糸町店」は、決してブラック企業ではなかったのである。
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Written by プチ鹿島
Photo by ぐるなび/刀削麺荘 唐家 錦糸町店
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