Photo by こんな日本をつくりたい 石破茂×宇野常寛
新聞はふだん「政局より政策を」と主張するが、いざ政局が始まると政治面は俄然華やかになる。記者も張り切ってしまうのだ。
私もそれらの「オヤジジャーナル」(おっさんが発信しておっさんが受信)を楽しむようになって、「政局がそこにあるのなら、政局をウオッチする意味もあるのでは?」と思い直した。政局にこそあらわれるディテールがあると思うのだ。登場人物の話し方やふるまい、表情ひとつで何か感じるものが。器量さえもわかってしまう瞬間もあるかもしれない。
日本には「床屋政談」という言葉がある。
床屋政談では政策の専門的論議などない。政治家の言動の品評会で盛り上がるだけ。だけどそこに集う、たとえば商店街のオヤジたちの人物評は意外と間違ってはいない気がする。額に汗して社会のしがらみを見続けている大人の嗅覚は無視できない。
ここ最近の床屋政談で盛り上がったのは「安倍首相VS石破茂・自民幹事長」にちがいない。
9月3日に予定されている内閣改造・党人事に関し、8月早々から「首相は、石破氏を幹事長から安全保障法制担当相にする」というニュースが出まくった。遂には「石破氏、受託の方向へ」という先行記事も。首相サイドの情報戦に対し石破氏はどう反撃するのか。
先週8月25日のTBSラジオ「荒川強啓デイ・キャッチ!」にて、遂に石破氏は「安全保障法制担当相への就任を辞退」と明言した。石破氏は来年の自民党総裁選へ向け、無役になる覚悟を決めたのか? オヤジジャーナルは大騒ぎになった。
しかし。8月29日になって「石破氏が入閣受諾意向 地方相軸に調整」と一斉に流れた。「あれれ......」という感じ。
もしかしたら「石破氏はメディアで公言するしか方法は無かった」とも考えられないだろうか。ああいう発言をすることによって安倍首相との会談に一か八かで賭けた説である。
首相周辺のお友だちが情報操作に長けているのに対し、石破氏はそういう戦いがうまくないように見える。というか、本当のお友だちは石破氏にいるのか?
2年前の自民党総裁選で地方票では圧勝したのに国会議員票では安倍氏に逆転を許した。世間ではウケているのに永田町ではウケが悪そう。たしかにあのキャラは「永田町の中心」には見えない。特定の知識は異常に深くて机の上では楽しそうだが実際のケンカは不得意そうなキャラ。
でも、こういう人が近年急速にスポットライトを浴びるのは、政策に「遠い人」もたらしこんでしまうザ・政治家的な人が飽きられたから、というのもある。
では、生臭い戦いが不得意そうな石破氏はどうすればよいのだろう。私は石破氏に足りないのは「妖怪ウォッチ」ではないかと思う。最近話題の「妖怪ウォッチを手に入れた主人公が、至る所に出没する妖怪達と友達になる」というアレである。
「安倍一強」に見えるが、最近のオヤジジャーナルを見ていると、じつは「死んだはず」の自民党大御所OBたちがうごめきはじめていることがわかる。
たとえば7月18日の朝日新聞には【(インタビュー)老兵は闘う 元官房長官・野中広務さん】という安倍政権批判の記事がでかでかと載っていた。朝日と野中氏が「敵の敵は見方」論理で共闘しているように見えた。野中氏は小泉政権の登場で引退に追い込まれたが、90歳近くなった現在ゾンビのごとくまた動き出したのだ。 おなじみ青木幹雄、古賀誠、森喜朗らも安倍政権に対し苦言を呈し始めている。
石破茂はこういう長老たちを毛嫌いしてるかもしれないが、もし総裁への道を本気で考えているのなら「妖怪」たちと手を組むしたたかさが必要なのかもしれない。
私はここまで政策や各々の思想・信条的なものは一切省いて書いてきた。誰がよいとか悪いとかではない。すべては床屋政談が盛り上がるためである。
「妖怪ウォッチ」ならぬ「永田町・妖怪ウオッチ」を続けたいと思います。
【前回記事】
プロレス物件「吉田調書」朝日と産経の異なる解釈...プチ鹿島の『余計な下世話!』vol.58
Written by プチ鹿島
プチ鹿島●時事芸人。オフィス北野所属。◆TBSラジオ「東京ポッド許可局」◆TBSラジオ「荒川強啓ディ・キャッチ!」◆YBSラジオ「はみだし しゃべくりラジオキックス」◆NHKラジオ第一「午後のまりやーじゅ」◆書籍「うそ社説 2~時事芸人~」◆WEB本の雑誌メルマガ ◆連載コラム「宝島」「東スポWeb」「KAMINOGE」「映画野郎」「CIRCUS MAX 」