もうすぐ終わる平成という時代。
古くから盛者必衰とはいうものの、ブームのタームが短くなり、浮かんでは消えて忘れられていくものがどれほど多かったことか。
そんな中にあって「昭和」の魅力を持ち続けたものは、浮かぶこともない反面、平成の乱世はどこ吹く風といった風情で、静かに生き続けてきました。
来年にはもう「二つ前の時代」になる昭和。その魅力が、再認識されるであろうことは想像に難くありません。今回ご紹介するのは、そんな昭和な珍スポットです。
昭和遺産のひとつ「ラブホテル」。
ビジネスホテルなどより回転が早いため、利益率の高くなるラブホテルは、高度経済成長とともに各地に林立しました。また、団地という無個性な居住空間が増えたことを背景に、昭和のラブホテルは「非日常」を演出する空間となっていったのです。
そんな非日常的な昭和ラブホテルの王様が、大阪の京橋に残っています。
1977年創業の「ホテル富貴」です。昭和感をかき立てるケバケバしい紫色に輝くネオン。紫は聖徳太子が定めた冠位十二階でも最上の位階を示す色であり、大相撲の行司の最高位である立行司が持つ軍配の房も紫であるように、気品の高い色なのです。入館前からすでに「非日常」にいざなわれています。
館内もまた、スタイリッシュやグローバルの名のもとに、今ではすっかり姿を見なくなった昭和的デザイン。
ラブホテルらしく、光っている部屋のパネルを押して、こちらもレトロでゴージャスな意匠で飾られたフロントにて、鍵を受け取り部屋へ向かいます。
ホテル富貴は「ローマ」「武家」「英国」など、部屋ごとにテーマが決まっておりそれぞれに全く別のデザインが施されています。なかでも人気の高い302号室「江戸」に入ります。
2畳ほどの玄関で靴を脱ぎふすまを開けると、さらなる非日常の空間です。
高床式ベッド!!高貴さと下世話さが同居するデザインは「場所は日本」「時代は昭和」でしか生み出すことのできないものでしょう。
他の時代の誰が他の国の誰が、玉石を敷き詰めて灯籠を配した庭の上にベッドを設えようなんて考えつくでしょうか。さらにそれが、創業から40年以上にわたって生き続けているのは、もはや文化遺産と呼ぶべきではないでしょうか。
他の部屋もご紹介いたしましょう。
101号室「ガラス」。黄金の擬宝珠のついた朱塗りの欄干が、どこか誉れ高い寺社仏閣を連想させつつ、その中に配された下品なほどに色とりどりな西洋風の造花は、時間はおろか洋の東西さえも一足飛びに超えてみせます。にも関わらず、全体的に心地よい調和があるのは奇跡としか言いようがありません。
さらに101号室には、懐かしいでは済まされないようなマッサージ機が置いてあり、「現役」で稼働しています。うしろに見える瓦葺きの塀との異様なコントラストは、一見の価値ありです。
こちらは102号室「舟」。
その名の通り、ベットが舟の形をしています。ホテル富貴はラブホテルですが、この状況ではなかなかそんな気持ちにはなれないかもしれません。
あるデザイナーが流行について「二つ前の時代が巡ってくる」と言いました。元号が変わる来年、二つ前の時代になる「昭和」がまた流行するかもしれませんし、その兆しはすでに各所に見えています。しかし「作られたレトロ」ではなく「昭和そのもの」を、私は愛してやみません。
一人での宿泊も歓迎とのこと。大阪の宿はここで決まり!?(Mr.tsubaking連載 『どうした!? ウォーカー』第16回)
■ホテル富貴
大阪市都島区東野田町3-7-11
06-6353-4135
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