まずはこちらをご覧ください。
ここが銭湯だとわかるまでに何秒かかりましたか(タイトルで言っちゃってるけど)? 銭湯といえば、煙突に富士山のペンキ絵、木札の下足箱など「古き良き日本」をイメージしますが、今回紹介する珍スポットは「やりすぎ」な銭湯です。
珍スポットは「肥大化した個人趣味」であることがよくあります。あくまで個人の範囲に限定されることで、会議を通っていない個人のアイデアが色濃く出ていて、投入できる資金が少ない。結果的に珍スポットは、偏った小物が多くDIY感の強い場所になることがよくあります。
そこににじみ出る人間味が、珍スポットの魅力でもあります。
この銭湯も個人経営。取材に応じてくださったのは少しくたびれたTシャツにジャンバーを羽織った、普通な感じのご主人です。しかしこの銭湯は「個人」という枠を一歩飛び出した風情があるのです。
まずは外観から。
等身大のギリシャ彫刻が屋根の上にまでいくつも並び、ピンク色のラインが特徴的なその姿は、千葉県習志野の閑静な住宅街に、圧倒的な存在感を発しています。
銭湯といえば、セキュリティ甘々の下足箱がおなじみですが、こちらの下足箱はLEDにより、下足箱全体が発光します。もはやそれは銭湯でもギリシャでもない、完全オリジナルな世界観。
店内へ進むと、ロビーと番台(この言葉の違和感がすごい)。大きな暖炉まで設えられて、ここからは18〜19世紀ヨーロッパを彷彿とさせるロココ調やベルエポックな雰囲気をたたえた家具が所狭しと並んでいます。
そして、脱衣所が冒頭の写真になるわけです。やわらかなピンク色を基調とした、女湯の脱衣所に対し、男湯はこちら。
印象的な曲線の意匠がついたロッカーがそびえ、力強いライオンが大きな口を開けて迎えてくれます。天井からは大きな社シャンデリアもさがっています。個人発信の珍スポットと一線を画しているのはこの統一感。
五月雨的に物が増えていくパターンが多く、主人の趣味の変遷が混在してカオス状態になることが多いのに対し、フランスの人気デザイナーであるミュシャの世界に飛び込んだような、アール・ヌーヴォーの世界観が保たれています。
浴室へ進んでいきましょう。
浴室にまで徹底した世界観へのこだわりが見られます。
ここまでくると、銭湯というより何かしらのエンターテイメントの中にいるようです。改めて思い出して欲しいのが、ここが「個人」でやられているということ。
開店準備がひと段落したご主人に、少し話を伺いました。
現在「クアパレス」という名で営業をしているこの銭湯ですが、元々は昭和21年創業の富士見湯という、伝統ある銭湯でした。当時はどこにでもあるような町の銭湯といった風情だったそうです。1990年に周囲からの反対もありながらも、2代目となる今のご主人が一念発起し、現在の姿に改装。
こうした姿になるスポットの多くは、往々にして独りよがりで自己顕示欲の強いものになりがちですが、ご主人曰く「昔も今も、長く来てくれている地元の人をとにかく大事にしている」とのこと。
古き良き銭湯の常連だったかたからは、この改装が反対されたであるうことは想像にかたくありません。それでも、先細りする平成の銭湯業界で生き延びているということは、富士見湯の頃からの常連客や地元の人からの信頼も厚いのでしょう。
そんな店主の気持ちは、徹底した西洋風デザインの隙間からも見え隠れします。
男湯の脱衣所に置かれた新聞各種。
女湯にだけ設置されているのは、19世紀フランスの大女優サラ・ベルナールが居そうなきらびやかなパウダールーム。多くの女性が心をときめかせることでしょう。
そして、昭和を生きてきたお客さんを大事にしている店主らしく、浴室内のいたるところに「昭和のキングオブ娯楽」であるテレビが設置されています。
サウナには巨大なテレビの下に3台のテレビ。営業が始まれば、それぞれ別のチャンネルを放映し、チャンネル権で客同士がいがみ合う必要がありません。
さらに驚きなのは、ジェットバス。3人が入れる浴槽なのだが、その全てにテレビモニターが設置されており、湯に浸かりながら自分だけのテレビを楽しめるのです。
数種類のジェットバスに打たせ湯、薬湯もあれば電気風呂に爆泡風呂、2種類のサウナと、もちろんお風呂としても、銭湯価格で提供できるものの限界を完全に突破。
現在、銭湯ブームは静かに再燃の萌芽を見せています。ここクアパレスはその最前線を走っていい銭湯です!(Mr.tsubaking連載 『どうした!?ウォーカー』 第19回)
■クアパレス
千葉県船橋市薬円台4−20−9
平日:15時から24時30分
土日:14時から24時30分
不定休
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