会社のトイレで合法ハーブ? 社会不適合者のわたしたちを10年も食わせてくれた出版社について|春山有子

2018年09月20日 会社のトイレ 出版社 合法ハーブ 春山有子 社会不適合者

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sm.jpgS&Mスナイパー


 1976年から現在まで、日本のサブカルチャーシーンを牽引し続けるあの出版社が、11月末日をもってなくなるのをご存知でしょうか。クイックジャパンを刊行する太田出版? 伝統あるコアマガジン? ヤフー知恵袋で「サブカル出版社ってどこだと思いますか?」と聞くと出てくる宝島社や角川書店?
 いえいえ、なんとあの、ミリオン出版でございます!!!

 かつての「S&Mスナイパー」からはじまり、「アウトライダー」「ティーンズロード」「GON!」「URECCO」「egg」「MEN'S KNUCKLE」「実話ナックルズ」など爆発力のある雑誌を多数刊行してきた出版社です。

 しゃらくさいおしゃれに興味があるような人には、「ああ、実話ナックルズ(笑)」と言われがちですが(実際に言われた。本当に『(笑)』がハッキリとついていた)、その名を相手に出したとき、懐の深さや保守性を測るリトマス試験紙のような存在でもある、あのミリオン出版です。

 なんか、「日本のサブカルチャーシーンを牽引し続ける」なんてきしょいことを書いてしまいましたが、当事者たちにそんなきしょいシーン牽引意識がないことは、同サイト編集長の元ミリオン出版社員・久田将義氏を見ればわかることかと思います。

 筆者も数年前まで10年弱、同社に所属していただけに、なくなってしまうの心底、残念無念です。第一報を聞いたのは、つい先日。

「突然、全社員が集められ、会長が神妙な顔で『ミリオン出版がなくなります。それでもついて来てくれますか?』と話し始めました。会長は外部に漏れることを危惧していましたが、その日のうちに、複数の社員が関係各所に話していました。というかその前から知っている周辺関係者もいたくらい、ガバガバのゆるゆるでしたけどね」(関係者Aさん)

 そう、その、まるで筆者の膣圧のような"ガバガバのゆるゆる"な懐の深さが、同社の強みでありました。

 そうした社風は、筆者が所属していた頃もあり、筆者も含め、普通の会社ではとうていやっていけそうにない人間も受け入れてくれました。

 朝起きることも電車に乗ることもトイレに行くこともできなくなり、会社のトイレで合法ハーブ(当時は)をキメてやっと動けるようになっていた人(というか、筆者です照)。深夜から上司の机の下に潜り込み、上司が朝来ると机の足にしがみつき「辞めたくないいいいーーー」と号泣した人。そんな部下を引きずり出そうと50代の体に鞭打ってすごいがんばった人。説教をする前の練習とのことで、突然立ち上がり誰もいない空に向かい「きみは! だからさあ!」とエア説教を始めた人。「テープ起こしは私の仕事じゃありませんッ!」と自己主張した新人。社内で痙攣しながら白目をむいて倒れこむ人を見ながらも、シャブやってるんだとばかり思って誰も救急車を呼ばず放っておいた人たち。惚れた女性社員の引越し先を突き止め数日後に近所に引っ越して、「引っ越しちゃった☆」と戦慄の笑顔を浮かべ、女性社員を怯えさせた人。侵入した右翼に殴られメガネが曲がった人。右翼からうんこ入り郵便物を送られた人。遅刻した後輩にかわってラブドールを運び腰が逝った人。地下1階のトイレから乱れ髪で出てきた2人。デスクトップを「机の上」のことだと思っていた人。

 さすがに経費でコツコツと長期間かけて高級自転車を買った人は許されませんでしたが、そもそも会長が社内の一角にM奴隷を吊るすためのSM器具などを備え付けているくらいです。しかもそれは秘密の趣味でもなんでもない。そもそもSM一貫で成り上がった会社ですし。ほかにも思い出せないほど愉快な人たちを受け入れてくれたミリオン出版でしたが、徐々に縮小し、現在は10数人ほどのこじんまりとした会社に。
 現在の主な定期刊行物は、「実話ナックルズ」「俺の旅」「まちがいさがしパーク」や複数のエロ本など。

 「ミリオン出版がなくなった」あと、社員たちは、親会社の大洋図書に合流するといいます。

「会長は『"ミリオン出版"だからこそ仕事をしてくれていた外注の人たちは、"大洋図書"でも仕事をしてくれるだろうか......』なんて心配していましたが、いや全然大丈夫っすよ。みんなどっちでもいいんじゃないですか? こっちとしても、ミリオン出版のままだと、今所属している編集部がなくなったら即クビだっただろうけど、大洋図書ならまああと1年はクビがまぬがれたかな、と。朗報ですよ朗報」

 楽観的な前出の関係者Aさんのような、この"ガバガバのゆるゆる"イズム。みんながすぐ被害者になったり加害者になったり、怒ったり正義感を振りかざしたりする世知辛い世の中にこそ、どうか継承してほしいものです。(文◎春山有子)

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