「万引きGメンの事件ファイル」by 伊東ゆう
我々保安員(万引きGメン)は、あらゆる店内犯罪を取り扱うため、盗撮行為も当然に摘発対象としている。首尾よく捕捉するのは非常に難儀なことであるが、女性の敵である盗撮犯捕捉のインパクトは大きく、結果が全ての俺達にとっては美味しい獲物といえる。今回は、盗撮犯の驚くべき手口と、その実態を報告したい。
先月、都内某所にある高級スーパーを巡回していると、制服姿の女子高生に目を奪われた。この寒い中、チェック柄のミニスカートをはいて、眩いばかりの真白な脚をむき出しに歩いているのだ。その顔を見れば、アイドルだといわれても違和感はないほどの可愛さで、隣にいる母親らしき女性も相当な美女であった。少しのあいだ見惚れていると、二人の背後にいる中年男性が、ねっとりとした嫌な目付きで女子高生の太腿を見ていることに気がついた。スケベな野郎だと思いながら動向を注視していると、たすき掛けしていたショルダーバッグを右肩にかけ直した男は、サイドポケットから何か小さなモノを取り出してキャップを外した。その瞬間、小さなレンズがキラリと光った。
それからスイッチを押すような素振りをみせた男は、レンズを上に向ける形でサイドポケットに戻して、前を歩く親娘の尾行を再開した。セッティングの一部始終を目撃したことで、この男が盗撮行為に及ぶことを確信した俺は、気付かれぬように跡を追う。
しばらくすると、製菓材料が陳列されている売場に立ち止まった親娘が、商品を手に取りながら楽しそうに話し始めた。きっと、迫るバレンタインデーに備えて、どんなものを作るか相談しているのだろう。
(やるならここだ)
そんな確信を持ちつつ棚の陰で身構えていると、見ていて恥ずかしくなるほどのエロい顔をした男が、一般客を装って二人の背後に忍び寄った。そして反対側にある商品棚の方に身体を向けて親娘と背中合わせの状態になると、斜め下方を向くアロワナの様な目で女子高生との距離を計った男は、肩にあるショルダーバッグを押し出すようにしてスカートの中に差し入れた。書店で盗撮する者は何人か捕捉した経験があるが、スーパーで盗撮行為に及ぶ者は初めてだ。確たる証拠を押さえるために、三秒数えてから襲いかかった俺は、男の首根っこを掴むと荒々しく声をかけた。
「おい、何を撮っているんだ」
「違う、違うんだ!」
身体を商品棚に押しつけられて動きを封じられた男が、逃れようと身を捩って暴れたために、商品棚に陳列されているドレッシングの瓶が床に落ちて二本割れた。それと同時に悲鳴をあげた親娘は、何が起こったのか分からずに、揉み合う俺達を呆然と見ている。すると、努めて冷静を装った被害者の母親が、極めて不安な表情で俺に言った。
「何があったかわかりませんが、乱暴はいけませんよ。一体、どうしたっていうんですか?」
「盗撮です。娘さんのスカートの中を盗撮していたので、お手数ですけど事務所までご同行願えますか」
「ええっつ!?」
盗撮犯を確保した場合、被疑者だけでなく被害者の身柄も押さえなければ、事件は成立させられない。自分の身分を明かして親娘に同行を願うと、その隙にサイドポケットにあるモノを取り出した男は、それを床に放り投げて踏みつけた。
「てめえ、何やってんだ!」
証拠隠滅を図る男を床に倒して、身動きできないように押さえ込む。倒された男の脇では、捕捉時に割れたゴマドレッシングと和風ドレッシングが混じり合って不気味な色を形成しており、その色が男の抱える心の闇を表現しているように思えた。
「ちょっと、ウチの主人が何をしたっていうんですか!?」
すると、この男の奥さんと思しき女性が、野次馬をかき分けて俺に詰め寄ってきた。意外な展開に動揺しながら旦那が盗撮していたことを伝えると、信じられないといった様子で言葉を失った奥さんは、顔を上げられないでいる旦那を見下ろすように睨みつけた。
奥さんの登場で大人しくなった男の身柄を駆けつけた店長に預けて、証拠品を拾い上げると、その形状に驚愕した。USBメモリの形をしたカメラなのである。奥さんと一緒に来店しているにも拘らず、こんなモノまで用意して盗撮行為に及ぶのだから、常習犯であるに違いない。青ざめた表情でうなだれる奥さんに、それとなく聞いてみると、男に前科はなく、こんな趣味があったとは知らなかったと話した。
事務所に連行して身分を確認すると、この店の近所に住む男は四十八歳で、外資系製薬会社の部長職にあるという。現場に臨場した女刑事がUSBカメラの中にある画像を確認したところ、その中には六百枚以上の盗撮写真が納められていた。そのほとんどが、この店の最寄り駅のエスカレーターで撮影されたものらしい。それを聞いた被害者の母親は、事務所の隅で俯く奥さんに同情しつつも、被害届を出すことに決めた。その一方、被害者本人である女子高生は、見られることなく済んだから別にいいと、特に被害者意識はないようだ。
それから一カ月近くたったある日。現場であるスーパーまで示談成立の報告に来てくれた親娘から夕食の接待を受けた。犯人から五十万円の示談金を受け取ったという女子高生は、その金で好きな洋服やスマホを買えたと喜び、こんなに金をもらえるのならば盗撮の被害者も悪くないと話して母親に怒られていた。その一方、犯人の男は十日間の留置を経たのちに釈放され、三十万円の罰金刑を受けたという。被疑者夫婦の行く末は気になるが、それを知る術はない。これを機に止めてくれればいいと、願うばかりなのである。
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Written by伊東ゆう