台湾で学生らが立法院を占拠、TPP交渉進める日本に影響あるか?
台湾・立法院をバリケードで籠城する学生らの様子(台湾の報道映像)
台湾で学生らが立法院(国会) を占拠し、バリケードを構築して籠城するという騒動が起きている。これは政府が騙し討ち的に取り決めた中国との協定に対する抗議活動で、籠城は今月18日から続いている。
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対中国大陸「サービス貿易取り決め」に反対の学生らが国会占拠/台湾
(台北 19日 中央社)立法院(国会)で審議されている中国大陸との「サービス貿易取り決め」をめぐって、これに反対する学生を中心とした一般市民のグループが18日夜、議場内に立てこもり、現在でも警察側との対立が続いている。
反対派のグループは18日午後9時ごろ、警察の警備網を破って立法院に突入し、会議場を占拠した。学生や市民らは「取り決めを差し戻し、民主を守れ!」などと叫び、馬英九総統が話し合いに応じるよう求めた。
警察側は19日午前3時37分と同5時23分に強制排除を試みたが、グループのメンバーらは議場入り口にバリケードを作って抵抗し、いずれも失敗に終わった。また、立法院の外でも反対派の支持者ら数百人が議場占拠に加わろうとつめかけ、警察側ともみあいになった。
反対派は午前8時7分になり記者会見を実施、警察の立法院からの撤退や馬総統の謝罪、江宜樺行政院長の辞任などを要求し、取り決めの審議の方法が違法にあたるとして差し戻しを求めたほか、立法院は迅速に中国大陸との取り決めに関する法律を制定し、法制化までは台湾海峡両岸の上層部の相互訪問と話し合いを中止するべきだと訴えた。(中略)
台湾海峡両岸のサービス貿易取り決めは昨年6月に締結され、台湾のサービス業にとって輸出成長のチャンスになると見られているが、印刷、出版、美容など一部産業への影響が懸念されているほか、野党陣営も「密室協定」だとして内容の修正や再協議を求めていた。
(中央通訊社 フォーカス台湾より http://japan.cna.com.tw/news/asoc/201403190001.aspx)
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【協定締結まで】
今回問題となっている台中間の『両岸サービス貿易協定』とは、一見するとFTA(自由貿易協定)やTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)と近い内容に思える。ところが米韓間のFTAの不平等さや、日米間のTPP交渉のゴタゴタと同様かそれ以上に、非常に多くの問題をはらんだ内容だったのである。
元々台湾と中国の間には『両岸経済協力枠組協定』があり、その後を継ぐ案として浮上したのが今回問題となっている協定だ。これは2013年の6月に上海で開かれた双方の窓口機関のトップ会談によって締結された。(台湾・海峡交流基金会 中国・海峡両岸関係協会)
ところが、台湾メディア『中国時報』がこの協定の存在についてアンケートを取ったところ、2013年6月に締結した協定だというのに、同年8月の時点で「そんな協定は知らない」という回答が40%以上となった。 さらに 「知っている」と答えた場合でも、詳しい内容については「よくわからない 50%以上」「まったくわからない 20%以上」という結果が出てしまい、台湾の国民の殆どがこの協定の詳細を “締結された後なのに知らなかった” ということになる。
ちなみにこの『中国時報』は、以前はリベラル派知識人の総本山とも目されていた存在だったが、オーナー交代の際に「新オーナーの親中路線には従えない」と大量の離職者を出してしまったという逸話がある。これはそのような “親中メディア” によるアンケート結果だという点を付け加えておく。
【海峡両岸サービス貿易協定の問題点】
[サービス貿易協定による開放分野]
金融、商業・サービス(広告・パソコン・レンタカー・印刷など)、通信(インターネット・宅配事業)、娯楽・文化・スポーツ、映画、観光・旅行、建築・工事、健康・医療、小売(卸売業・小売業)、運輸(バスや貨物など)、その他(美容室・クリーニング・ゲーム開発・葬儀場・火葬場など)
[時系列]
・2013年6月、上海で台湾の海峡交流基金会と中国の海峡両岸関係協会との間でトップ会談が行われ、両岸サービス貿易協定が締結された。
・上のアンケート結果が示しているように、交渉も協定内容も国民に伝えられず、多くの国民や、問題に直面するであろう業者などが詳細を知ったのは協定締結後だった。
・どの分野を開放するかといった点の協議についても、与野党共に進捗が伝わっておらず、密室の中で少数の関係者が取り決めてしまったも同然で、野党から「立法院で各項目(および各条文)を個別に審査させろ」という要求が噴出する。これに与党も同意した。(国民党に限っても立法委員の70%以上が協定内容に賛成しなかった)
・2013年6月、与野党間において「協定の条文ごとに審査と表決をし、審査を通過しない限り発効しない」という取り決めが交わされた。
・2014年3月16日、与党である中国国民党の立法委員が『立法院職権行使法』 を根拠とし、時間切れを理由に審査通過(打ち切り)を宣言。一方的に本会議への付託を決めてしまった。
※補足 『立法院職権行使法』 は行政命令に関する法であり、台中の窓口機関間での調印に適用すべきものかどうか不明
・馬英九政権は、発効の遅れが台中関係の悪化に繋がるとし、協定の承認手続きを強引に推し進めようとしている。
[台湾の専門家の声 ※中国時報より]
小規模な自営業者の多い台湾のサービス業界において、中国資本との競争は倒産・閉店を招く結果にしかならない。(民進党・管碧玲立法委員)
事前に業者の意見を聞かず、政府が勝手に決めてしまった。台湾の印刷業者の30%以上が倒産する。(台北市印刷商業同業公会・徐維宏総幹事)
1,000社以上、労働者の家庭1万世帯に打撃を与える。(台北市小客租賃商業同業公会)
この問題を理解するためには、まず台湾と中国の関係性を把握しなければならない。そもそも台湾は独立国なのか、それとも中国の一部なのかという時点で分裂しているのだ。台湾びいきの日本人は無責任に「台湾は独立国だ!」という意見を推すかもしれないが、実際に台湾に住んでいる人間からすれば話はそう簡単ではない。
「ひとつの中国」を標榜し、親中派と目されていた馬英九は選挙によって総統に選ばれたのだから、今回の協定の推し進め方に問題があったとしても、ただ独立を謳えば台湾人の願望に沿うという訳ではないのだ。
今回の騒動で台湾の若者が身を投げ打って行動に出たことに対しては最大限の評価をしたいが、国会への籠城というのは奇策である。台湾にも民主主義に基づいた選挙というシステムがあるのだから、そちらで少しずつ国を変えて行くことが正道である。奇策に出るしかなくなってしまった時点で、そんな状況になってしまった点についての反省をせねばならない。
馬英九が再選を果たした2012年の総統選挙の結果を見ると、2位の蔡英文との差は僅か6%であった。投票率は74%と日本では考えられない高さではあるが、両者の僅差を考えると複雑な思いがする。充分に正道で国家を動かせる状態にあったのだ。
さて、今回の騒動は決して台湾だけの問題ではない。日本も日本でアメリカとのTPP交渉という似たような問題に直面している。そもそも自民党は野党時代に「TPP交渉自体に参加しない!」と断言していたのだが、与党に返り咲くなり交渉参加を決定してしまった。そしてTPP交渉は「締結まで交渉内容を公にしてはならない」というルールで行われており、我々国民は未だにその全容を知らない。安部首相から漏れてくる内容も、何か言葉を発する度に方向性が変わって行くという有り様だ。
今回の台湾の騒動は、ほんの何ヶ月か先の日本の姿なのかもしれないのである。しかし仮にTPPが最悪の形で締結されたとして、日本でも同様の危険を顧みない行動が起こせるだろうか?
日本人の投票率は冗談のように低く、公約など守れなくて当たり前となり、とてもじゃないがせっかくの選挙という手段・権利を活かせているとは言えない。
また福島の原発は今も海に陸に放射性物質をまき散らし続け、日本有数の食料生産地であった福島県は国民にも政府にも棄てられたも同然になっているが、それでもなお日本人は見て見ぬふりを続けるばかりだ。こんな国に、果たして台湾のような “熱さ” を期待できるだろうか?
国会への籠城という手段は明らかに奇策ではあるが、その奇策すら選択できるかどうか怪しい情けない日本人からしてみたら、不謹慎ながら羨ましいという感情が先に立ってしまう。台湾で若者の血が流れるような事態にならないことを祈るだけの自分を恥ずかしく思う。
Written by 荒井禎雄
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