ヤマダ電機だけじゃない? 大型店舗の社員による商品盗難、現金窃盗の実態
刑法第253条 業務上自己の占有する他人の物を横領した者は十年以下の懲役に処する。
家電量販店最大手のヤマダ電機(東証一部上場)で、社員による商品盗難や現金窃盗が多発し、今年1~8月の間だけでも5200万円もの被害が出ていると週刊文春が報じている。
昨今、従業員による内部不正があとを絶たない。日本の小売業界における「内引き」の年間被害は千四百五十億円に上るとされ、これに納入業者による不正を加えれば、二千億円を優に超える被害をもたらしているという。反復継続して行われる巧妙な犯行は証拠を確保するのが難しく、その被害が明らかになったとしても身内を疑う訳にもいかないので、簡単に摘発することはできない。あまり知られていないが、我々保安員(万引きGメン)は、従業員による内引きや不正行為にも対応している。今回は、数々の内部不正現場を目撃してきた筆者が、その実態を暴く。
●アルバイト店員によるレジ不正
とある大型ショッピングセンターの本部より、ここ数年、レジ金に毎月十数万円の誤差が生じているので原因を究明してほしいという相談を受けた。早速レジの上に設置された防犯カメラの映像を確認してみるが、画像が粗いこともあって確証は掴めない。そこで複数いるレジ店員の勤務状況を精査して、誤差を生み出しているレジの担当者を絞り込むと、勤続五年目となる二十代の女子社員に対する容疑が固まった。通常の勤務で捕捉することは難しいので、レジ操作の研修を受けて新人アルバイトに成りきった俺は、女子社員の手許が見通せる隣のレジに陣取って内偵調査を開始した。
レジ打ちの仕事にも、ようやく慣れてきた四日目。混雑する女子社員のレジに並ぶ中年女性を誘導するべく「二番目のお客様、こちらへどうぞ」と声をかけると、それを無視してこだわるように並び続けた。中年女性の振る舞いを不審に思い注視すれば、安い野菜などだけをレジに通した女子社員は、高級食材や化粧品、そして衣料品などの高額品は打刻することなく精算済みカゴに入れていく。さらには千円札一枚の支払いに対して、九千円の釣銭を渡しているところも現認できた。カラ打ちと釣銭不正を複合させた悪質な手口だ。
女子社員の犯行を現認すると同時に店長を呼び出して、二人の身柄をその場で押さえる。事務所に連行して話を聞けば、共犯者は女子社員の母親で、証拠を突きつけると素直に犯行を認めた。その後の調べで判明した被害総額は、およそ八百万円。業務上横領の容疑で逮捕された母娘は、警察の調べに対して過去の犯行もすべて認めた上で示談に臨み、自宅を売却して全額精算することで懲役を免れたという。
●店長による内引き
大手ディスカウントストアにおいて、店長による内引き事案に遭遇したこともあった。大型テレビやゲーム機本体、それに高額掃除機や炊飯器などといった換金可能な商品を、次々と自分の車に積み込んで持ち去っていく現場を目撃したのである。その店長は捕捉した万引き犯に対して優しく説諭するタイプの人であったため、明らかに未精算の商品を積み込む光景を初めて見た時には、なんらかの事情で商品を運搬しているのではないかと我が目を疑った。しかし、悪意に満ち溢れた目で周囲を警戒しながら、いそいそと商品を持ち出す動きを目にすれば、悪事を働いているとしか思えない。でも、この場で捕捉することはできない。なぜなら、この店の商品管理者は店長なので、捕捉したとしても犯罪を成立させられないのである。つまり、被害者と加害者が同一人物になってしまうから、本社に被害届を出させる必要がある訳だ。
それから数週間、店長の退店時に慎重な追尾を実施して何度かの犯行を現認した俺は、細やかな報告書を作成して本社の判断を仰いだ。すると、担当部長ら数人の上司が臨場して、捕捉現場に立ち会うという。その後、しっかりと捕捉された店長は退職金を受領することなく解雇され、三十年近く勤めてきた職場を失った。後の訴訟で確定した被害総額は、およそ千四百万円。強制執行により身ぐるみを剥がされた店長は、その首を括ることで生涯を終えた。
内部不正は、灯台下暗しという言葉を地で行く卑劣な犯行だ。発覚しにくいがために、一度手を染めてしまえば、その誘惑から逃れることは難しい。きっと誰かが見ている。商店で働く人達は、自分の人生を棒に振らないためにも、そのことを肝に銘じて業務にあたってほしいと願う。
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Written by 伊東ゆう
Photo by 万引きGメンは見た!/GPミュージアム
大胆すぎる犯行