小学生を実行犯に母親、祖母が見張り役…三世代で連携プレー「万引き一家」が急増中

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 信じ難い話ではあるが「万引き一家」が年を追う毎に増加している。最近の風潮では、刑罰の対象にはならない十四歳以下の子供を実行犯に仕立て上げるケースが目立ち、捕捉された時には居直る保護者も多い。今回は、現役保安員でもある筆者が見た万引き一家の実態を、ここにお伝えしたい。

 S県にある大手ショッピングモールで勤務にあたっていた時の話だ。モール内の食品売場で警戒していると、七十代にみえる祖母と三十代であろう母親、そして小学校高学年位の娘で形成された三人組の一家が入店してきた。一見して、二世帯住宅に居住するありふれた家族のようにみえるが、その雰囲気がどことなくおかしい。

 楽しいはずのショッピングモールにいるのに、何ひとつ会話することなく、一家全員の表情が重く沈んでいるのだ。それが気になって様子を見守っていると、母親から何かを言いつけられた娘は、足早に酒売場へと向かっていった。娘の顔には緊張感が漲り、酒売場の通路の両端を固めた祖母と母親は、落ち着き無く周囲を見回している。

 気付かれぬよう一家の行動を監視すると、まもなく二本の高級ウイスキーを手にした娘は、祖母と母親にアイコンタクトを送ってから肩にかけたエナメル製のスポーツバッグに酒を隠した。三世代に渡る共犯関係の犯行を見るのは初めてだ。得体のしれない怒りに心臓を煽られた俺は、彼らの視界に入らないよう細心の注意を払いながら、万引き一家の追尾を開始した。

 カゴを手に取って生鮮食品売場に移動した一家は、鯛や鮪の刺身、和牛肉などを娘に取らせて、この店一番の死角である菓子売場に向かった。そこで酒を隠した時と同じフォーメーションで生鮮食品をスポーツバッグに隠し入れると、続けていくつかの菓子を手にした娘は、それも隠した。菓子を選ぶ娘の表情には年相応の楽しげな様子が窺えたが、商品をバッグに隠す時には、悪役商会顔負けの恐い目をして行為に及んだ。その手馴れた犯行を見れば、今回が初めてでないことは明らかだ。

 何度も後ろを振り返りながら出口に向かう一家が店外に出たところで、娘の肩にあるスポーツバッグのひもを掴むと同時に、そっと声をかける。

「こんにちは。このバッグの中にある商品、精算してもらえますか」

 その途端に表情を変えた母親は、喰ってかかるように声を荒げた。

「なんですか、どれですか? ウチの子供が、何をしたっていうんですか?」

 常習者の多くは、見られていないという自信からか、このような台詞をよく吐く。しかし、犯行の一部始終を確実に現認(犯行の一部始終を目撃すること)しているので、俺が怯むことはない。

「お酒を入れるところから、全部見ていたんですよ。あなた達だって、しっかり見張っていたでしょう」

 その瞬間、傍らにいた祖母が、娘の手を引いて逃走を図った。娘の持っているバッグを咄嗟に引き寄せて、それを阻止する。

「ママ、助けて!」

 泣き叫んだ娘は、もがくように暴れ始めて、俺の足を踏みつけてきた。それに併せて、母親が俺の手を引っ掻く。これも打ち合わせた上での行動なのだろうか。こんな形で家族の絆を見せつけられても、まるで感動できない。

「痛いなあ。いい加減にしろよ……」

 痛みを堪えて手を離さないでいると、事情を知らない中年男性が駆けつけてきて、あろうことか俺を突き飛ばした。

「あんた、こんな小さい女の子に何をしているんだ。110番もしたからな!」

「何って、万引きしたから声をかけてるんですよ。悪いのは、この人達なの!」

「ええっ……!?」

 言葉を失った一般客は、困惑した表情を浮かべて立ち尽くしている。すると、通報を受けた警察官が、タイミング良く現場に臨場した。

「おい、何やってんだ。その手を離せ!」

 警察官も同様に俺を悪者に仕立て上げたが、事情を説明すると納得して、娘の持つバッグの中身を検めた。証拠を突きつけられた祖母と母親は、不貞腐れた表情で俺を睨み、子供のしたことだからと居直っている。真実を知る立場として、この振る舞いを許すことはできない。

 そこで警察官と共に一家を事務所まで同行して、防犯カメラの画像を確認すると、運の悪いことに二人が見張っている場面は記録されていなかった。何ひとつ証拠を持たない見張り役を立件するのは容易なことではない。諦めかけたその時、一家の前歴照会をかけた警察官が、顔色を変えて俺と店長に言った。

「酒を盗んでいることだし、前にも同じようなことをしているようなので、タレ(被害届のこと)が出るなら立件する方向で調べます。どうされますか?」

 犯情も悪質なことから店長が被害届を出すことを決めると、祖母と母親は逮捕されることになった。まだ小学校五年生である娘は、三人暮らしであるためにガラ受けを用意できず、児童相談所に保護されるようだ。

 この一家の暮らしは、今後どのような行く末を辿るのだろうか。そこに見えるのはドロドロとした暗闇しかなく、親を選べない子供の苦しみに胸が張り裂ける思いがした。

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Written by 伊東ゆう

Photo by Lew57

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