【ラグビー日本代表】南ア戦の奇跡、スコットランド戦はひいき目でなく健闘|久田将義コラム
イギリスで行われているラグビーW杯において、日本中を驚かせたのが南アフリカに勝利したラグビー日本代表。現地では桜のジャージにひっかけて「ブレイブ・ブロッサム」と言われているようだが、正にその名前にふさわしい闘いだった。
イギリス発祥のラグビーだから、ウェールズやスコットランドが強いのは当たり前で現在はニュージーランド、オーストラリアそして南アフリカが頭一つ抜けて強いとされている。その南アフリカに勝ったのは奇跡に近かった。南アフリカ戦で最後の逆転トライを演出したのは、ラストパスを出したNTTコム所属のアマナキ・レレィマフィだ。途中出場からセンターの位置に入り、最後は対面の相手をハンドオフでいなし、一人余らせて最後は両手しっかりパス。逆転に導いた選手だ。
レレィマフィは奇跡の日本を演出した立役者エディ・ジョーンズHCの肝いりで日本代表に選抜された。南ア戦での前記のビッグプレイに「センスの良い選手だな」と思っていたら、やはりスコットランド戦ではナンバー8として、スターティングメンバーで登場。南ア戦は二点差の辛勝だった事を考えると、フルバック五郎丸のキックがいかに大事かを改めて印象づけられた。
南アフリカ戦で、死闘を繰り広げた日本代表は中三日で相手にとっては初戦となるスコットランド。ラグビーの試合は経験すれば分かるのだが、疲労がとても激しい。例えば野球はダブルヘッダーもあるが、ラグビーでは出来ない。また毎試合といっていいほど怪我人が出たり退場するスポーツもほとんどない。
想像して頂きたい。身長が190センチ近く、体重が90キロ近い鍛えあげた肉体を持ち、100メートルを11秒から12秒台で走る能力を持つ男が10mほど助走をつけ、真っ直ぐ自分に向かって突進してくる様を。それも防具なしで立ち向かわなければいけない。ちょっとした交通事故のようなものである。
日本はその体格差を「低いタックル」と「殺すつもり」の精神力で補った。どんな大男でも足元にある小石にはつまづくものである。だから、「低いタックル」は有効だ。その代わり、非常に勇気がいる。それには「殺すつもり」ぐらいの覚悟が必要なのだ。
南ア戦で俄然注目を浴びた日本代表をテレビ観戦した人も多いと思う。ツイッター上では「ニワカ批判」めいたものも見られたが、ニワカファンが増える事は初見が増える事なので、非常に喜ばしい。ただ、自称「俺が正しい解説者」が増えるかも知れないのが気になるが、ラグビーファンはあまりそういう人はいないようだ。
心配されたのが初戦のスコットランドと二戦目の日本代表。体力の疲弊具合がどの程度なのかだが、エディジャパンはそれを想定して世界一と言われる猛練習をこなしてきた。とは言え、やはり疲労は残っていたであろう。リーチマイケル主将は「それは言い訳には出来ない」と言っていたが。
スコットランド戦は45対10という点差で敗れたが、前半と後半までは勝てるのではないかと、思い観戦していた。が、ハイパントを落とすミスやノックオン、スローフォワード等のイージーミスが目立ったのも事実。疲労は残っていたのではないだろうか。日本代表のモールでのトライはエディHCにとっては想定内だっただろう。モールを壊すことは、ルール上、ほとんど難しい。従ってどのチームも、確実性が高いモールでのトライを狙っている。
スコットランドは上手く戦った。ポイント近くで縦に突っ込むだけでなく、時々バックスに回して、日本代表の目を幻惑させまた疲労させた。バックス陣の速さやステップワークも一流だった。前半最後、絶対絶命の折にフルバック五郎丸が捨て身のタックルでトライを防ぎ、このビッグプレイで日本が後半も勢いづくと思ったのだが……。
ラグビーでポイントとなる選手はスクラムの最後に位置する背番号6,7,8の「第三列」だ。最も早くボールに行き、タックルをしてまた走る、そしてタックルをする。という繰り返しの動作をしなければいけない。陸上で言えば短距離も長距離も早いというような選手だ。フランカー、ナンバー8と呼ばれるポジション。リーチマイケル主将もフランカー。そして、僕が注目していたレレィマフィもナンバー8だ。
レレィマフィの勇気ある突進は、何度も日本代表を有利な流れに持っていった。しかし元々、古傷があるレレィマフィは後半で怪我で途中退場。その果敢なプレイは誰もが印象づけられたであろう。彼が最後まで出場していたら、試合の流れは変わっていたかも知れない。
ともあれ、スコットランドのオープン攻撃にやられたゲームだった。ポイント近くでは、低いタックルで防いだ日本代表もオープンに回させるとなぜか、ディフェンスが足りない(余る)ような印象があった。スコットランドはその、日本代表の隙をゲーム中に見つけていたのではないだろうか。中三日で敗れた日本代表。次のサモア戦は一勝一敗で臨む。
Written by 久田将義(東京ブレイキングニュース編集長)
ラグビー日本代表監督エディー・ジョーンズの言葉―世界で勝つための思想と戦略
次が正念場。