「新宿マナザ」裁判 家族のために日本で売春をさせらた女性と雇用主の日本人 法廷で語られた真実とは
この空の下で…
大塚の個室マッサージ店の従業員で「マキ」という源氏名で働いていたナパポーン・メーティター(仮名、裁判当時23歳)の国籍はタイで、日本には短期滞在資格で来ていました。短期滞在資格での労働は資格外活動とされ入管法違反の罪になります。彼女は帰国を予定していた日の前日に摘発され逮捕、起訴されていました。
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「日本に来た目的は働いてお金を稼ぐためです。家は貧しく夫はいません」
来日した目的をこのように話していた彼女の家族構成は、祖母、母、おい、そして5歳になる息子の五人家族でした。5人のうち、働いているのは母と彼女です。タイでは中学校を卒業してからずっと工場で働いていました。給料は月給10000バーツ(日本円で約35000円)ほどでした。この額では母の給料と合わせても5人が生活していくには足りなかったようです。
日本で働くと稼げる、という話は以前に工場の同僚から聞いたことはあったそうです。しかし、彼女に日本で働くように薦めて承諾させ、ブローカーと連絡を取って彼女を日本に行かせたのは彼女の母親でした。
「母からは、仕事内容はマッサージだと聞かされていました」
と供述していましたが、彼女はすべてわかった上で来日していました。
「日本に来たその日の夜に店に行きました。客とセックスをする、ということはわかっていました」
幼い息子のため、家族のため、そうは言っても初めて来た言葉もわからない国で相当なストレスがあったと思います。逮捕されるまでの二週間の間に稼いだ額は約30万円だそうです。
本番行為をすることは禁止していた――
「新宿マナザ」というデリバリーヘルスで働いていたハルカ(源氏名、裁判当時24歳)もタイ人で、彼女も短期滞在資格で来日して資格外活動で逮捕されていました。裁判のはじめに職業を聞かれた際には「売春です」と答えていました。
彼女が来日した理由も「生活が貧しく、お金を稼ぎたかった」というものです。ハルカに関してはマキとは違って家族には仕事内容を知らせずに来日していて、今回は4回目の来日でした。今までの3回も同じように資格外活動をしていましたが、摘発されずに済んでいたのです。
ハルカを雇用していた新宿マナザの店長、吉本和夫(初公判時54歳)も入管法と売春防止法の裁判を受けていました。
彼は多くの外国人女性に資格外活動をさせた入管法違反に関しては罪を認めましたが、売春防止法については否認しました。
「本番行為をすることは禁止だと従業員には話していましたし、店にはそう書いた貼り紙も張ってありました。性行為をさせてはいません。客にも本番行為をしない旨の誓約書にサービスの前にサインしてもらっていました」
と話していました。あくまで、従業員が店の決まりを無視して客と本番行為をしていた、という主張です。客と取り交わした誓約書に関しては処分してしまったらしく証拠として提出されていません。
「『本番の時は必ずゴムをつけろ』と指導されたと、ある女性従業員は話しているんですけど、そんな指導はしたんですか?」
と検察官に問われた際には
「それはその子がウソをついています」
と断言していました。
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「新宿マナザ」と検索してでてくる個人ブログにはこんな文章があります。
「新宿で確実に本番できる裏風俗のアジアンデリヘルの代表格を紹介するとすれば、新宿マナザの名前を挙げないわけにはいかないでしょう」
「マナザの嬢は、基本的には全員が基盤可能。それこそがアジアンデリヘルの醍醐味ですね」
マナザは本番ができる店として有名だったようです。本番行為を禁止していた、というのは形式的なものとしか思えません。
お金を稼ぐために日本に来る女性たちがいます。同じようにお金を稼ぐために彼女たちを雇う人間もいます。
利用しあっている関係、違法であることを除けばそれはそれでいいのかもしれません。しかし、金を得る代償として彼らは大切なものを失ってしまった気がします。(取材・文◎鈴木孔明)