【実録】万引きGメンの事件ファイル「恨みながら死んでやる!」開き直った車イスの老婆は絶叫した
「現行犯人は、何人でも、逮捕状なくしてこれを逮捕することができる」(刑事訴訟法第二一三条)
この法を利用して業としているのが、万引きGメン(保安員)という仕事だ。今回は、過去十数年に渡って三千人を超える万引き犯と対峙してきた現役の万引きGメンである筆者が、現代万引きの実態に迫る。
(あれ? あの婆さん……)
かなり治安が悪い街にあるスーパーでの勤務中、夫らしき男が押す車椅子に乗った老婆の悪意に満ち溢れている目が気になった。老婆の膝の上に置かれたカゴの中には、いくつかの野菜や米が入っていて、カゴと身体の間には口のあいたクリーム色のバッグが置かれている。
気になって注視すると、男に指示してウインナーを取らせた老婆は、カゴの中へと乱暴に投げ入れた。商品を乱暴に投げ入れるのは、万引き犯の示す代表的な挙動のひとつだ。すると、老婆を乗せた車椅子は、この店一番の死角である酒売場に向かって車輪を回していく。こうなると、相手が車椅子とはいえ、決して油断できない。
(やった……)
棚の陰から動向を見守っていた俺は、車椅子に乗る老婆の手がカゴの中にあるウインナーや総菜を鷲掴みにして、それらを手前のバッグに隠すところを見た。バッグに隠した商品を出さないまま、カゴに残る商品の精算を済ませた老婆は、周囲を警戒しながら店外に出ていく。
「こんにちは、お店の者です。おばあちゃんのバッグにあるもの、お金払ってほしいんですけど……」
「ああ、これ? さっき知らない人からもらったんだよ。いらないから返す」
車椅子の脇について声をかけると、動揺する様子も見せずに堂々と言い切った老婆は、バッグの中から昆布の惣菜を取り出して俺に突きつけた。その一方、車椅子を押す男は、唇を震わせて言葉を失っている。
「じゃあ、ウインナーはどうしたの?」
「落ちていたから拾ったんだよ」
どちらにせよ金は払っていないので、呆然とする男に状況を話して事務所に連行する。すると、その道中で、車椅子の老婆がウインナーを投げ捨てた。
「おばあちゃんダメだよ、何やってんの……」
「あたしのじゃない!」
言われてみれば確かにそうだと感心する。
被害品は、
アルトバイエルン 1点 358円
紫蘇若布昆布 1点 198円
計2点 合計556円であった。
事務所で話を聞けば、車椅子を押す男は老婆の夫で、妻の犯行は知らなかったと釈明した。実行犯である老婆も、往生際悪く否認し続けている。
「じゃあ警察呼んで調べてもらうね」
「そんなことしたら、車椅子で車に飛び込んで、あんたのことを恨みながら死んでやるからな!」
居直る老婆に呆れ果てた店長が、老夫婦の目の前で警察に通報する。それを見て顔色を変えた老婆は、夫の制止を振り切って、こう叫びながら俺のボディを五発も殴った。
「こいつめ、こいつめ! あたしが死んだら、全部あんたのせいだ! こいつが憎い、こいつが憎い!」
駆け付けた警察官が夫婦の犯歴を照会した結果、この老夫婦にはいくつかの前科があり、逮捕はしないものの基本送致することとなった。最後まで呪詛を唱え続けた老婆は、警察の調べで「罰金を払ったことで金がなくなったからやった」と反省の色なく話していたという。その後のことは、俺も知らない。
Written by 伊東ゆう
Photo by freeheelskiing_2
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万引き…要は窃盗です