iPhone 6騒動で注目集める中国の携帯ビジネス事情

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●iPhone 6騒動に中国人が反論「あれは韓国人のなりすまし」

 iPhone 6の発売で日本やアメリカのアップルストアに中国人が大挙して押し寄せ、各地で非難轟々のトラブルを巻き起こしている。今現在、中国ではiPhone6の発売目処が立っておらず、いくら大金を積んでも欲しがる富裕層に売りつけるため、胡散臭い連中が台数確保に悪戦苦闘しているようだ。特に、日本の場合はSIMフリー版(キャリアが自由に選べて海外でも使える)が初めて発売されるとあって、混乱に拍車をかけてしまった。

 今回の騒動で日本・アメリカのみならず、中国でさえもネット上に批判の声が渦巻いている。 中国版のSNS等では「国の恥」「また日本人に馬鹿にされる」「日本人にだけはエサを与えるな」といった同胞を責める言葉の他に、「店の前で大小便をしなかっただけ、中国人の中でもまだ民度が高いな」といった自虐的な書き込みもあった。

 また「悪いのは中国人だけじゃない」「なりすましの韓国人がやったんだ」 「偏向報道だ」「マスコミは信用できない」といった、日本と全く同じような光景も見られ、自分の国籍だけを武器にネットで鬱憤晴らしをする傾向は日本特有のものではないのだと安心(?)させられた。

 さて、この騒動を聞いて、なぜか今から10年以上前に関わった、とある日本人業者の恥ずかしい失敗を思い出してしまった。流行りにいっちょ噛みしようとして大恥をかくのは中国人だけじゃないという心温まるお話なのだが、iPhone騒動とは全く関係ないお話になってしまう事を予めお詫びしておく。

 2002年頃に私が在籍していたAVメーカーにこのような打診があった。

「中国で携帯バブルが来る! ビジネスチャンスなのでコンテンツを分けて欲しい!」

 ここでいう “コンテンツ” とは、DVDや動画データなどではなく “jpg画像” である。なんでも中国政府が国策として携帯電話の普及に力を入れていたようで 「新しいハードにはエロソフト」 ということでAV業界に白羽の矢を立てたようだ。

 そしてこの話を持ち込んで来たのは、名前を出したら誰もが「おお!」と言うであろう有名ゲーム会社のそれなりの位置にいた人間(以下A氏)である。 今一瞬 “大鳥居” なんて単語が頭に浮かんだがきっと気のせいだ。

 A氏は中国の携帯バブルに合わせ、日本からエロコンテンツを持ち込もうと画策し、会社に黙って中国人コーディネーターと法人を立ち上げていた。ちなみにこの中国人とは、オンラインゲームの商談で知り合った仲だったようだ。

 さてさて、ここで少々疑問が生じる。この頃、すでに中国では国産オンラインゲームの第一号(MMORPG) が稼働していた。という事は、携帯ではなくパソコンがそれなりに出回っていたという事になる。

 そんな時になんで携帯用コンテンツなのかと聞いてみたところ、「中国は国策として携帯電話の普及に力を入れてます。あの広大な土地に電信柱を立てたり、地下にインフラ設備を張り巡らせるのは不可能なので、アンテナ1本でそれなりの範囲をカバー出来るモバイルを普及させるのはとても効率的なんです。また、携帯での通信速度が最大9.6kbpsから最大15kbpsに改善されるので、そのタイミングでエロコンテンツを集めた有料サイトを開設したいんです」 とのこと。

 A氏によれば「だから爆発的に携帯利用者が増える → となればエロに需要が!」という発想らしく、時間との戦いでもあったので、普通では考えられないような金額で写真素材を買い取ってくれる事になった。

 だがしかし、窓口になった私は中国のエロ規制の厳しさを知っていたので、老婆心ながら「いきなり買い取るのではなく、中国側のコーディネーターと露出度合いの基準を決めてからの方がいい」とアドバイスしてしまった。それにA氏も納得し、とりあえずまずはサンプルとして様々なバリエーションの画像を持ち帰り、どの路線がOKか確認して貰う事に。

 数日後、また会社にA氏がやって来たのだが、彼が口にした台詞に私は目眩を覚えた。「お預かりした画像の中で、向こうのコーディネーターからOKが出たのは最もソフトな物だけです。なのであの範囲内の画像をとにかく一杯ください」

「最もソフトな物」とは、乳首アリナシといったレベルの話ではなく、着衣の画像ないしは谷間すら見えていないバストアップの画像などである。下着写真さえも物によってはNGと言われたらしい。(ガーター着用でポーズを取っているような内容)

 となると、今度は困るのはAVメーカー側だ。AVメーカーにある写真素材は、殆どが「何かしら出ている」ため、中国基準だと9割方NGになってしまうのである。何千枚単位の写真素材にいちいちモザイク処理を施す訳にもいかず、それ以前に「何も出ていない写真」を探すのに四苦八苦する有り様で、単価で考えたらおいしい話ではあったのだが、通常の業務に加えてそれをやっていたら私がぶっ倒れるという事で、残念ながらその話はなかった事になってしまった。

 妙なアドバイスをせず、中国の基準も何も関係なくありったけの写真素材を売りつけてしまえば良かったと後悔することしきりである。

 さて、その後のA氏がどうなったかというと、話をお断りさせて頂く代わりに紹介した他メーカーや、AV専門の通販会社を回って、なんとか必要なだけの素材を集めてサイトをオープンさせたらしい。

 ところが、A氏の目論見通りに携帯利用者もネットユーザーも増加したにもかかわらず、彼のサイトは鳴かず飛ばずで大失敗。それもそのはずで、エロコンテンツを欲しがる中国人がどこに集まったかといえば、当時まだ比較的簡単に接続可能だった海外のエロサイトや、ハナから権利など関係ないアングラ海賊版サイトなどだったのだ。もっと言えば携帯電話でオカズを探すような文化にはならず、それを求めた層は迷う事なくPCに走ったらしい。

 A氏の予測では「田舎住まいの人間にもネット環境が渡るのだから、潜在的な人数を考えたらとんでもないビッグビジネスになる!」という事だったらしいのだが、実際は田舎に住んでいる人間はモバイルの有料サイトに課金出来るような経済状況にはなかった。そして都会に住んでいる連中はネット環境に恵まれているので、エロが欲しければPCでネットに接続し、タダで見られるコンテンツを探し出して用を足す。この辺りは日本と殆ど変わらなかったと言っていいだろう。

 A氏も中国人コーディネーターも、わざわざ法人を立てて、ある意味で逃げ道のない形でビジネスをしようと安全策を採ってしまったため、国内法を遵守せねばならず、結果的に摘発上等のアウトロー手法に太刀打ち出来なかった。 しかし当時のネットは幾らでも逃げ隠れが出来たので、そんな時代に正攻法で挑むのは勝ち目が無さ過ぎたのだ。更新頻度・量・過激さの全てで競合に負けている上に有料、しかもモバイル限定で画像のみなのだから、それで勝てたら逆におかしいというものである。

 ちなみにA氏からその後も別件で何度か打診があり、その度に私はひとりの人間が泥沼にハマって行く様を見せ付けられた。 中国携帯バブルの話の次に私に回って来た話は 「マッチングサイトへの出資」 である。 A氏いわく 「これは出会い系じゃないんです! マッチングサイトなので全然別だし安全です!」 との事で、この人は本当にインチキに向いていないんだなと。まずお前自身があらゆる詐欺に引っ掛かるタイプだなと。

 当然その話もポシャり、ほんの何年か前に聞いた話では遂に「マイナスイオンを発生させる画期的な装置の開発に成功したセンセイが……」とかなんとか仰っていた。

 その話を最後に、私がA氏を着信拒否リストに入れたのは言うまでもない。

Written by  荒井禎雄

Photo by iPhone 6 スタートブック (SB MOOK)

iPhone 6 スタートブック

目論みが甘かった…。

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