【未解決事件の闇14】女性編集者失踪・Xの反撃と八方ふさがりの捜査

 無罪となった後、Xは2001年になってE子や元妻、その同僚のホテトル嬢を偽証と誣告をしたとして損害賠償で訴えている。また国を相手取っても訴訟を起こしている。相手は検察官と捜査を担当した刑事、つまり検察と警察である。

 しかしなぜかこの二つの訴訟はX側が取り下げている。これに関して美千代さんは憤りながら話す。

「自分が起こした損害賠償裁判、その公判の本人尋問公判の前日にですよ、自ら起こした訴訟を取り下げたのです。訴えを起こした本人が公の場で正々堂々と証言できるという前日に訴訟を取り下げた理由はなんでしょうね」

 Xは取り下げた理由を何も話していない。これに関して先の元検事が指摘する。

「Xがそのあと反撃に出るわけです。その理由は知りません。これは推測なんですが、そのころ横浜で殺人の後、遺体に火をつけたという事件がありまして、刑事で無罪になったのに民事でいろいろ出てきたんです。その判決が全国紙に出てからですよ。彼が取り下げたのは。おそらく民事で裁判を続けたら辻出さんのことに類が及ぶと思ったんでしょう」

 これが事実だとするとやはりXこそが失踪の鍵を握っている人物だということになる。

 一方、Xは日弁連への人権救済を訴えていて、これについては無事に受理された。そして日弁連は三重県警や津地方検察に対して警告を発している。それによると、

「(捜査にあたった)警官はXに対し暴行を加えたり、弁護士との接見交通権を侵害したり、黙秘権に関する虚偽説明による威迫、弁護人の役割に関しての威迫、写真を用いての威迫といった行為を行ったとしていて、そうした行為は、被疑者であるXの権利を侵害する違憲違法な人権侵害行為」と断じ、次のように結んでいる。

「今後、被疑者の取調べに当たっては違法な捜査を厳に慎み、被疑者の黙秘権や弁護士との接見交通権などの権利を最大限尊重されるように警告する」と。

 もちろん検察に対しても、やはり警告があった。それは国家賠償のところで記したものと同様の内容であった。

 無罪が決定的だったのか、それともこの警告書が問題なのか。どちらかは分からないが、三重県警の現場サイドには上層部から現場へお達しが届いたことがあったという。

「無罪判決の後、今後、Xには一切手を出すな、というお達しがありました。そりゃ上層部からすれば、触らぬ神にたたりなしということでしょう。自分が任期にある間は「人権侵害だ」とかそんな風に訴えられたりして不祥事になるのは勘弁ってことなんだと思いますよ」と元捜査員は言った。

 別件とはいえ無罪になったのだ。捜査目的でXと接触するのはやめておけということだ。三重県警の管轄エリアで未解決事件が多いのは、上層部のこうしたことなかれ主義もその一因を造っているのだろうか。無理な捜査をやって問題を起こすよりは、放っておけということかもしれない。

 一方、県警のマンパワー不足が原因ではないかという話も聞いた。先の元検事は言う。

「無罪判決や日弁連の警告が捜査に関係したか? 関係ないんじゃないですか。任意で話さなくなったから、別件で身柄を確保したわけです。任意で拒否されたらそれまでです。張り込みはやれない理由はないでしょう。しかしそこはマンパワーの問題もあるでしょう。日々事件が起こっているんですから」

 県の広さと人員の不足がXへの追及の矛先を鈍らせているというのだ。

Written Photo by 西牟田靖