【北朝鮮漂流船の真相】 「工作船じゃなくて漁船。遭難したとしか思えねえ」(漁師談) 【写真7枚で見る漂着現場】

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日本海沿いの、人けのない舗装道路わきに、ユンボと、数人の警備員が見えた。警備員の背後には、岩の浜が広がっていて、白い波がせわしなく打ち寄せている。

ユンボから数十メートル離れたところで、車を止めて、車外に出ると、関取のような体格の警備員がこちらに向かって歩いてきた。

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「中さ入ってケガでもされだら困ります」
「東京から見に来たんですよ。写真だけでもいいですか」
「中さ入らねぁで下さいよ」と緊張感のない感じでクギを刺された。

日本海の海岸に続々と木造船が漂着している。2017年に入ってから12月下旬までで全国では100隻近く。加えて遺体が流れ着くこともあるというから、薄気味が悪い。

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木造船はいったいなぜ流れ着くのか。漁船ではなくて工作船だったりしないのだろうか。そんなことを思って、とりわけたくさんの漂着船が打ち上げられる秋田県にまでやってきていた。

にかほ市飛餅田の海岸に木造船が漂着したのは12月19日。船底が上になって岩の浜に打ち上げられているのを地元の人が見つけたという。

発見から3日がたった22日の午前10時すぎ、私は現場にいた。道路から岩の浜を見下ろしたとき、木造船は報道とは様子が違っていた。浜から10メートル以上離れた高台の道路際に舳先を道路に向けて置いてあったのだ。

「(発見したときは)縦さ埋まっていたような状態だったで。さっき引き上げたばっかりで、これがらどうなるのかちょっとわがんね」と警備員は続ける。

事実、船の底から雫がポタポタ落ちていて、まさに今、作業が完了したばかりだということがわかった。

岩の浜に降りて、木造船に近づいてみた。

船の大きさは長さ10メートル、幅が3メートルほどあるだろうか。舳先には赤字で「ㅅ시01400J」とハングル混じりの番号が記されている。

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後部が壊れていて、周囲にその破片が散乱していた。船内にはオレンジ色の救命胴衣や漁業用の網のほか、漁網を巻き取るモーター、耕運機のエンジンのような形をしている船のエンジンが残っていた。

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周囲には漂着物が散乱していた。코끼리표と記された北朝鮮製の長靴、船体の一部と思われる木材や漁網、発泡スチロール、ガスボンベなど。私が訪れる2日前には船から4メートルほど離れたところに、遺体がみつかったというが、現場にはすでになかった。とはいえ、かすかな腐敗臭が、機械油と潮の匂いに混じってまだ漂っていた。

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木造船を見ていると、ほかの見物人たちが後から数組やってきて、道路側から写真を撮り始めた。木造船の写真をひととおり撮った後、私は道路に戻って、話を聞いた。

「木造船の解体は今日やるという話をきいたものですから見に行きました。細かく解体した後ゴミ処理場へ持っていきます」(にかほ市の職員)

「先日、老人クラブの集いに警察来で、11月末に隣町で船さ漂着して8人上陸したどぎの話があった。『ドアをノックされでもすぐに開けないように』とか『出かけるときはちゃんと戸締りをするように』と注意さ受げだ。あのどぎのように生ぎだ人間上陸したどすればそれは怖え。その点で(これがら)大変なごどになるんだべな」(70代後半の地元男性)

そもそもこの船は工作船なのだろうか。話を聞いたうちの一人が否定した。

「潮の流れがあるから流れ着く場所はたいてい決まってるんだべ。船の後部に巻き取り機があるだべすね。これは工作船じゃなくて漁船。魚ば捕りにきて遭難したとしか思えねえ。工作員が来てこっちにきたていうことではねえんじゃないがな。だげっとこっだな小さな船じゃ8人とか寝そべることはでぎねえ。特攻隊じゃあるめえし。無茶だ」(県境を越えて山形からやってきた老漁師)

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慢性的な食糧不足を解消するために、北朝鮮政府は「冬季漁獲戦闘」と称するスローガンを掲げ、冬場の操業をおこなうよう、漁民たちを煽っている。だが、冬場の日本海は荒れる。老朽化した木造船での操業は、命をかけた、さながら”戦闘”といえる行為なのだ。

写真・文◎西牟田靖