エベレストで死去 登山家・栗城史多氏が目指した「無酸素・単独登頂」とは何だったのか?

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 2018年4月17日から、エベレスト登頂挑戦の最中だった登山家の栗城史多氏が、5月21日、エベレストの下山中、死亡したことが分かった。35歳だった。

 栗城氏は、2012年8月末、4度目の挑戦をした際に凍傷が悪化し、2013年11月から2014年1月にかけて両手指9本を切断。2009年の初挑戦から8度目の戦いに挑んでいたが、残念な結果になってしまった。

 栗城氏は「頂上からインターネット生中継」「秋季(9月〜11月)エベレスト無酸素・単独登山」などを目標に掲げ、登山する自分を動画で撮影するスタイルで知られていた。

 その存在はマスコミの注目を集め、『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ)や、『バース・デイ』(TBS)、『アナザースカイ』(日本テレビ)など、数多くのTV番組に出演。著書を出版し、講演活動を数多く行っていた。

 一方、栗城氏の登山スタイルには、批判も多かった。それは「無酸素」「単独登頂」という表現である。登山界において、「無酸素」とは酸素ボンベを使用しないで登ることを意味するが、栗城氏の場合、キャンプにシェルパのサポート隊が酸素ボンベを用意して待機する体制をとっていた。

 また、「単独登頂」とはベースキャンプを出た後は一気に登り、サポートチームの支援を受けず、あらかじめ設営されたキャンプ、他人が固定したロープなどを一切使用しない「アルパインスタイル」を指すことが多い。栗城氏の登山は、大規模なサポート隊を編成し、シェルパが固定ロープを設置したり前進キャンプを設営し、無線で気象情報や行動計画のサポートを受ける「極地法」と呼ばれるスタイルだった。

 そのため、登山家や登山専門誌からは栗城氏は「無酸素」「単独登頂」という表現について批判されていた。また、自らがかねてから主張してきた「世界六大陸最高峰に、無酸素・単独登頂に成功した」という実績についても、そもそも他の六大陸最高峰は酸素ボンベは必要のない高度であり、他者の設置した固定ロープを使用して、ノーマルルートを他の登山者がひしめくノーマルシーズンに登ったため、疑問視する声も多かった。

 そのためなのか、栗城氏の公式サイトは現在、以下のような表記になっている。

“1982年北海道生まれ。大学山岳部に入部してから登山を始め6大陸の最高峰を登り、8000m峰4座を無酸素・単独登頂。”
 
 エベレスト登頂を成功させるためには、入山料、渡航費用、スタッフの人件費など、多額の費用が必要となる。「日本初」「世界初」などのキャッチーなフレーズがなければ、マスコミや世間は注目しない。「無酸素」「単独登頂」という表現にこだわった理由は、明白だろう。日本人で、栗城氏よりも数字の上で実績のある登山家は数多く存在するが、その名の多くは知られていない。

 もちろん、世界六大陸最高峰に登頂しただけでも、誰もがなし得ることではなく、立派な実績だ。HPに記載されている、栗城氏の実績を以下に引用する。

2004年6月  マッキンリー6194m単独登頂
2005年1月  アコンカグア6959m単独登頂(ポーランド氷河ルート)
2005年6月  エルブルース5642m単独登頂
2005年10月 キリマンジャロ5895m単独登頂
2006年10月 カルステンツ ピラミッド4884m単独登頂
2007年5月  チョ・オユー8201m単独・無酸素登頂 7500m地点からスキー滑降
2007年12月 ビンソンマシフ4892m単独登頂
2008年10月 マナスル8163m単独・無酸素登頂 山頂直下からスキー滑降
2009年5月  ダウラギリ8167m単独・無酸素登頂 6500m地点から生中継に成功 6500m地点からスキー滑降
2009年9月  エベレスト北側8848m メスナールート7900m地点まで
2010年5月  アンナプルナ8091m 7700m地点まで
2010年10月 エベレスト南側8848m 7550m地点まで
2011年5月  シシャパンマ南西壁8027m 7600m地点まで
2011年10月 エベレスト8848m サウスクロワールルート7800m地点まで
2012年6月  シシャパンマ南西壁8027m 6500m付近から滑落したが生還
2012年10月 エベレスト8848m 西陵ホーンバインクーロワール8070m地点まで。強風により両手、両足、鼻が重度の凍傷になり、両手9本の指を失う。
2014年7月  ブロードピーク8047単独・無酸素登頂
2015年10月 エベレスト8848m 8150m地点まで ※ネパール大震災により北側(中国側)登山からネパール側に計画を変更。
2016年10月 エベレスト8848m 7400m地点まで

 登山家・栗城史多氏のご冥福をお祈りします。(文◎N.A.B.E.)