「カート抜け」 清涼飲料水一箱をレジを通さず盗んだ男 裁判で語られた動機は「新商品と書いてあって、欲しくなった」

それ以来ずっと精神科で治療を受けてきました。通信制の高校をなんとか卒業したものの、社会に出ていくことはできませんでした。

自分の人生を振り返って彼はこう言っています。

「人と関わるのが怖くて仕方なくて、それで人から逃げ続けて、曖昧な生き方をしてきてしまいました」

日中はいつも家でゲームをする生活をしてきました。

「甘いものは昔から大好き」

という供述もしています。誰とも関われなくなってしまった彼にとって、ゲームと甘いものだけが人生の全てになってしまっていたのかもしれません。

 

長く、強い、孤独感

 

生活保護受給者で糖尿病の男がジュースを大量に万引きした、という事件の概要だけを見れば憤りを覚える人もいると思います。

しかし、人は本来は好むと好まざるとにかかわらず集団で生きる生き物です。長い期間、強い孤独感にさらされ続ければ人はその行動や情動に変調をきたします。注意力が散逸し、自己制御力は失われていきます。

「我慢ができなかった」

という供述もあります。この短絡的な動機を糾弾するのは簡単ですが、彼の感じていた「我慢のできなさ」は私たちの想像の及ぶ範囲の外にあると考える必要があります。

彼は糖分や脂肪分などの刹那的な快楽を非常に必要としていたのです。それ以外に彼は自分の心の痛みを和らげる手段は何一つとして持っていなかったのですから。