チリ人妻・アニータに会いに行った【後編】 悪女に描かれる彼女が”心から愛した日本人”との生活
アニータの自宅にはいつもマスコミが押しかけていた(筆者撮影)
※前編はこちらから
チリ人妻・アニータに会いに行った【前編】 出稼ぎ外国人女性が「じゃぱゆきさん」と呼ばれていた頃
アニータに大金を貢いだ日本人の夫と出会う前、彼女はペドロと呼ぶ日本人男性と出会っていた。働いていたスナックに客としてペドロが来たことが、馴れ初めであった。
「今でも本当に彼のことは好き、何しているのかなって、たまに考える」
そう語る彼女の目は、ここチリから遠く離れた青森でペドロと過ごした日々のことを思い返し、微かに潤んでいるようにさえ見えた。
アニータの男性遍歴を振り返ると、彼女の長女の父親は、サンティアゴのディスコで出会ったボリビア人で、長女が生まれる前に音信不通になった。それまで男性関係に恵まれていたとは言い難く、日本に来て彼女は人生で本当に愛する男性に出会ったという。
その男性の電話番号は今も大事に取ってあると言って、どこからかノートを持ってきて、私にその番号を見せて言った。
「日本に帰ったら、電話してみてよ。元気かどうか気になる」
その姿は悪女というイメージからかけ離れ、女子高生のような可愛らしい表情になった。
ペドロとは青森県内にある彼の実家でも数カ月生活し、親族にも紹介され結婚も考えた。運送業をしていたというペドロは、アニータとの生活費を捻出するのが精一杯で、アニータはペドロと同棲しながら、スナックで働き続けた。彼には内緒だったが、売春も続けていた。
「だって、お金を送らないといけないでしょ」
彼女は少し後ろめたさを感じてはいたが、ペドロの収入が少ないから仕方なかったと言った。
アニータの純愛
そうして働き続けていたスナックで、アニータに多額の現金を貢いだ夫となる男と出会うのである。男はアニータが働いていたスナックで金払いのいい客として有名だった。元々は別の女性の客だったのだが、その日いつも指名している女性が休みで、代わりにアニータが相手をした。
「格好もよくないし、なんか偉そうで、最初は何なのって思った」
ところが、席についたその日、食事に誘われて、その場で彼女は泣いてしまったのだという。
「いろいろストレスがあったの。お金を稼ぎたかったけど、全然貯まらないし。そんな話をしてたら、涙が止まらなくなった」
そんなアニータの姿が気になったのか、翌日も男はアニータを食事に誘った。ホテルのレストランでテーブルにつくと、なぜかアタッシュケースをアニータに差し出した。
「『どうぞ』って言うから開けてみたら、びっくりした。1000万円入ってた。お金を持ってると心配だから、次の日にチリに送った」
それからも男はアニータが欲しいものは何でも買ってくれたという。
「時計、バッグ、指輪、何でも好きなものを買った。まさか、それが盗んだお金とはわからなかった」
男と出会ってからの日々は夢のようだったという。しばらくして、プロポーズされた。アニータは迷うことなくプロポーズを受け入れた。それは本当に好きだったというペドロとの別れを意味した。
「愛した男だったから、隠さないで本当のことを言った。お金のために結婚したいって、そうしたら、ペドロは『アニータがそうしたいのならいいよ』って言ってくれた」
理想の愛を取るか、金銭的な豊かさを取るか、これはアニータだけではなくて、ある意味すべての人間についてまわる問いかけだ。アニータは金銭を選んだ。それが今日のアニータを生み出すきっかけとなったわけだが、一方で愛は成就することはなかった。
悪女と呼ばれた女は、おそらく今もペドロのことを思いながら日々を過ごしていることだろう。(写真・文◎八木澤高明)