“Tor無敵神話”が日本でも崩壊? アダルト宣伝サイトで大量逮捕事件を考える【前編】

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 これまで 「○○を△△すれば安全」 と信じられていたツールやコンテンツの使用者が、次々と逮捕されている。 ここではその代表的な事案を紹介しつつ、前編となる今回はニュースに対する解説(及びツッコミ) を中心に、そして後日公開する後編では、こういう流れになった背景について考察してみたい。

●Tor無敵神話が日本でも崩壊……か?

 Torとは、可能な限り簡単に説明すると、世界で最も匿名性が高いと言われているネット接続方法のひとつだ。 システムとしては、世界中に散らばっている何千ものサーバの中から、ランダムで接続先を決定し、リレーのように複数のサーバを経由させて行くというもの。

 利用者のパソコンをAとして、情報を暗号化して最初のサーバ(中継ノード)Bを経由、そこからC、D、Eとその都度暗号化して経由させ、最終的にFから目的の情報にアクセスするといった形になる。 このため、出口側からはFの情報しか得られず、そこから遡ってAという入り口に辿り着く事は非常に難しい。

 暗号化&経由→暗号化&経由→……と繰り返していく事から、玉ねぎの皮に例えられ、Tor(The Onion Router)という名称が付けられたそうだ。 早い話が扱いの簡単な多段串である。

 これを使った最も有名な事件は、誤認逮捕や冤罪による有罪判決と、警察の不手際が相次いだ 『遠隔操作ウィルス事件』 であろう。 日本では、この事件によって一気に知名度が上がったように思う。

 さて、今年9月にこのTorでなければ接続できない専用ページを介して児童ポルノを売買していたとして、複数の男が逮捕され、その後書類送検された。 このニュースが伝わった当初は 「遂に日本でTorが破られたか!?」 と一瞬だけ話題になったものの、結局逮捕のキッカケは 「無防備にビットコインで金銭のやり取りをしていて足が付いた」 のであり、Tor自体が破られた訳ではなかった。

 その前にも、Torを使って10代の男があちこちでサイバー攻撃を繰り返し逮捕されている。 こちらの逮捕理由などさらに笑い話のようなもので、犯人が自らネット上で “事細かな犯罪自慢” をしていた事から、個人が特定されて逮捕に至った。 これもまた犯人の自滅であり、Tor自体が破られた訳ではない。

 しかし 「Torを使えば何やっても安全!」 とだけ思い込んでいる連中は、どこかでこのような大ポカをやらかす。 日本の警察は確かにサイバー犯罪に対してまだまだ弱さを露呈する事が多いが、その代わり “人海戦術” という昔ながらの手法と組み合わせて逮捕実績を積み重ねている。 そこを甘く見た人間が、次々と警察の “実力” に組み伏せられているというのが実情だ。 だが、システム自体が負けた訳ではないため、今後もTorを悪用する輩は後を絶たないだろうが、同様に 「知識不足から逮捕・送検される人間」 も続出するはずだ。 なんにせよ、無敵の存在と思われていたTorも、今や警察はあの手この手で逮捕・書類送検に漕ぎ着けているという事実は覚えておくべきだ。

●大手無修正サイトのバナー広告で大量逮捕者

 続いて、ある意味でTor以上に安全が叫ばれていた、海外サーバを使ったエロコンテンツに関する話題である。 「海外にサーバを置いていれば、無修正を上げようと何をしようと国内法で罰せられないから安全」 という声をどこかで見聞きした事があるかと思われるが、代表的な存在はFC2や、大手無修正アダルトサイトなどだろう。

 何度か記事にしているが、それら海外サーバを使った、さらに言えば海外に法人を置いてある業者に対して、決して摘発や締め付けが進んでいるとは言えない状況だ。 FC2の場合は運営実態が国内にあったという事で何度か経営者が逮捕されてはいるが、それでも有罪判決を受けるまでには至っていない。 さらに、警察が潰したがっているであろう対象は他にもあるのだが、大手のアダルトサイトほどFC2と同様にガードが固く、運営会社を直接どうこうするという手法では殆ど実績を挙げられていない。

 ところが、この分野においても少し頭をひねるような摘発劇が巻き起こった。 違法なアダルトサイトの広告を掲載していた “アダルト広告宣伝サイト” の一斉摘発を敢行し、日本全国で13人が逮捕されたのだ。 10都道府県警が66箇所を捜索したというから、かなり本気度の高い大捕り物だったと言えよう。

 だが、ここで少々注意点がある。 警察発表にある “違法なアダルトサイト” という言い回しには疑問符が付く。 これは私個人の解釈になるが、厳密に言えば 「日本に法人があり、日本人向けに公開されているとしたら、日本の法律と照らし合わせた場合に違法」 という意味ではなかろうか。

 そう考える理由は、言葉通り “日本の法律に反している違法と断定できるアダルトサイト” ならば、回りくどいやり方をせず、そのアダルトサイト自体を摘発するはずだからだ。 しかし今回取り締まり対象となったサイトは、あくまで 「アダルトサイトへの誘導広告=バナー広告を掲載していたサイト」 である。 したがって、警察発表の冒頭に出て来る “違法なアダルトサイト” という言い回しには強い違和感を感じてしまう。

 しかも、逮捕理由は 「性器の露出があるバナーを、日本人のサイト運営者が、日本国内のサーバを使ったサイトに掲載していたから」 であり、容疑は “わいせつ電磁的記録媒体陳列” だ。 こうなると、いの一番に名前が出る “違法なアダルトサイト” が、結局は無傷で終わっているじゃないかと察せてしまう。

 悪どい業者を摘発したがっている警察に楯突く訳ではないのだが、このような理由から現在広まっている “違法なアダルトサイト” という表現は、ミスリードによる萎縮を狙ったものと判断させていただき、こう解釈する事にする。

『警察は、現在の日本の法律では逮捕・書類送検に辿り着けない、大手無修正アダルトサイトなどに圧力をかけるため、性器が丸出しになったバナー広告を掲載していた、日本人が日本で運営しているエロサイトを摘発した』

 こういう言い方にすると、何の違和感もないニュースとなる。

 追い打ちをかけるようで申し訳ないが、警察発表によると 「違法なサイトを閲覧するとウィルスに感染する可能性があるため、今回は違法な広告の方に重きを置いた」 といった説明がされているが、これも少々ナニがアレである。 おせっかいだが、この部分は実情を見透かされて舐められるので、警察発表で言うべきではない。

 というのも、ウィルスに感染する可能性があったとしても、感染したPCを隔離すれば、もしくはネットワークで部屋中のPCを繋いで作業するといったアホな真似をしなければ、そこまで大被害を受けるとも思えないからだ。 そもそも、警察が潰したいアダルトサイトとは、そのようなウィルスが仕込まれたアングラサイトではなく、もっと正々堂々とシノギをし、大きなお金を動かしている大手サイトではないだろうか。 そうでなければ見せしめにならないし、そもそも今回摘発されたような無修正広告を、手広くばら撒ける資金力がないだろう。

 今やネットユーザーの中にはこのように裏側を読める人間が数多くいるのだから、秩序の守り手たる警察が、自ら重箱の隅をつつかれに行く事はしないで欲しい。(続)

※ 後編ではこうしたニュース(警察発表) を元にして、いま警察が何を目指しているのかについて考察する。

Written by 荒井禎雄

Photo by Chris Halderman

アダルトサイトの経済学

熾烈な業界競争も。

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