先輩・吉澤ひとみの最悪のタイミングすぎる不祥事を乗り越え『ハロプロ・オールスターズ』初登場1位!
今年で誕生20周年を迎えたハロー!プロジェクトの現役メンバー55名が勢揃いしたハロプロ・オールスターズのシングル『YEAH YEAH YEAH / 憧れのStress-free / 花、闌の時』が9月26日に発売されました。
プロモーション期間中に、モーニング娘。のOGである吉澤ひとみがひき逃げ事件を起こし、発売日翌日に吉澤が保釈、その翌日に吉澤が引退を発表するという、最悪のタイミングでの発売となってしまったこのシングル。さらに、9月30日にはハロプロ・オールスターズのメンバーが11組に分かれて、全国26箇所を訪れる「ハロプロ・オールスターズ 全国同時握手会」というイベントを開催する予定だったのですが、台風24号の上陸によって中止となってしまいました。
とにかくアンラッキーが続いたハロプロ・オールスターズですが、なんとオリコン週間ランキングで初登場1位を飾りました。今回のシングルそのものは、かなり興味深いものとなっています。特にピックアップしたいのは、つんく♂さんが作詞作曲を担当した『YEAH YEAH YEAH』。透き通るようなピアノや荘厳なストリングスが印象的で、ミドルテンポでありながらもつんく♂さんがこだわり続ける”16ビート”を存分に感じさせる1曲となっています。
歌詞はというと、身の回りの些細な事柄と宇宙レベルの壮大なテーマが共存する”つんく♂らしさ”が全開。「ポイント有効期限が切れたら なんかイラっとね」と、数十円の損得に左右されてしまう人間の矮小さを描いたと思ったら、「人間がこの世で 威張っているのはなんか どうだろう?」と地球の生態系に一石を投じ、それでもやっぱり「人間に生まれて来たのは意味とかあるんだよ」と自己を強く肯定する。ここ数年のつんく♂ワークスに顕著なミクロとマクロが交差する「人生観」、あるいは「死生観」が如実に表現されています。
そして、今回のシングルは通常盤がAからFまであって、それぞれにモーニング娘。’18、アンジュルム、Juice=Juice、カントリー・ガールズ、こぶしファクトリー、つばきファクトリーが歌唱したバージョンの『YEAH YEAH YEAH』が収録。これがまた各グループの個性がしっかりと発揮されていて、かなり面白い。
各グループが現在行っているツアーでもこの曲を披露していますし、9月8日と17日に行われたハロプロ研修生発表会でも、新グループ&ハロプロ研修生というメンバーで披露されました。歌割りはもちろん、ダンスも各グループで微妙にアレンジされているなど、ライブでもまたそれぞれの個性を感じることができます。
単純に20周年を記念して全員で歌うだけでなく、同じ楽曲を通して各グループの個性を表現させるという試みは、必ずしも伝わりやすいものではないでしょう。しかし、そこを敢えて攻めるという点に、ハロー!プロジェクトのパフォーマンスに対する矜持が感じられます。もしくは、ハロヲタに向かって「お前らだったら、メンバーそれぞれの歌声の個性をしっかり聴き分けられるよな」というメッセージなのかもしれない。
過去には、2011年9月にハロー!プロジェクト モベキマス名義で発表したシングル『ブスにならない哲学』収録の『かっちょ良い歌』という楽曲でも、各グループが歌唱したバージョンがリリースされています。この方式は、いわばハロプロの伝統。数年に一度ハロプロ側からヲタに突きつけられる課題なのです。
そして実際に各グループバージョンの『YEAH YEAH YEAH』を聴き比べていると、その個性豊かな歌声から、ハロプロの未来がひとつの方向だけでなく、あらゆる方向に向かって進んでいくであろうことがひしひしと伝わってくるのです。それこそ、先輩の不祥事などでは決して揺らぐことのない輝かしい未来が広がっているのです。
『YEAH YEAH YEAH』の全バージョンを聴き比べるなんていう行為は、一部のハロヲタしかやらないことかもしれませんが、そういったコアな楽しみさえも許されるのが、ハロプロの面白さであり、いい意味で狂っている部分なのではないでしょうか。20周年記念シングルなのだから、何も考えずにバカ騒ぎできるような曲を持ってくるかと思いきや、じっくり聴き込んで、しっかり解釈をしなくてはならないような曲を持ってくるとは、ビジネス的には正解ではないのかもしれないけど、とんでもなくクリエイティブな選択だといえるはずです。
吉澤ひとみの件は、おそらくハロプロ史上最悪の事件です。しかし、それと同じ時期に今のハロー!プロジェクトの可能性をしっかりと表現したシングルが発売されたことは大きな救いだったと思います。「20周年記念」と銘打って、その歴史を総括するかのような振りをして、ただただ未来を見据えているハロー!プロジェクト。本当に楽しいのはこれからです。(取材・文◎大塚ナギサ)