【特集◎NHK紅白歌合戦の闇】こんなにある…生放送の紅白でやらかした放送事故の歴史|文◎藤木TDC
桑田佳祐・吉川晃司・加山雄三・中森明菜……
ここ10年ぐらい大晦日の夜は家で「紅白歌合戦」を見ているが、かつて筆者にとって「紅白」とはいかに「見ない」かがテーマの番組だった。
基本的に「紅白」には年越しの神聖な夜に一家団欒で見るという保守的世界観があって、フリーライターという根無し商売をしてると「『紅白』なんか見てられっか!」みたいに思い込む。こっ恥ずかしいが、どっかで無頼派を気どりたいんですな、大晦日だけでも。
思い返せばそういう心根はすでに中学時代にあり、「紅白」が視聴率70%以上のほぼ独占状態だった70年代にも、唯一民放が「紅白」にケンカを売ったコント55号の「紅白歌合戦をブッとばせ!」(日本テレビ 75~77年)を居間で楽しげに「紅白」視聴の家族と離れ、ひとり父親の部屋に置かれた室内アンテナの白黒ポータブルテレビ(家庭内にようやく2台目のテレビが入りはじめた頃だった)で見たり、「紅白」はまったく面白いとは思わなかった(近年、たまに衛星チャンネルの特番などで再放送される70年代の「紅白」を見るともう強烈に楽しい。年月とは不思議なものである)。
しかし80年代になると、なぜか「『紅白』面白えじゃん」と思えるようになった。
それは82年の「紅白」でサザンオールスターズの桑田佳祐が、三波春夫の「チャンチキおけさ」の後を受け同じようなギラギラの着流し姿で登場し「受信料を払いましょう!」と不謹慎にかました場面を見てからだ。
その時から自分にとって「紅白」は、天下のNHKが年間最大のイベントで失態を冒すハプニングを目撃する番組になった。
紅白になると張り切ってしまうのか、歌手たちが続々とやらかした失敗
視聴率絶頂期、85年頃の「紅白」には独特のただならぬ緊張感があり、出演者はみなここぞとばかり張り切りすぎて地雷を踏む失態がたびたびあった。それを発見し、これぞ権威の失墜ばかりとゲラゲラ笑うのが楽しかったんだね、嫌な性格だが。
前述の桑田のパフォーマンスに始まり、84年の引退する都はるみの紹介で生方恵一アナの「ミソラ…」失言はあまりに有名だが、総合司会の鈴木健二の趣味の悪い眼鏡の七変化もそうとう気持ち悪かった。
85年は有名な吉川晃司のギター放火とステージ居残り(背後に控えた河合奈保子の恐怖の表情!)、86年はオープニング早々、白組キャプテン加山雄三が少年隊の歌を「仮面ライダー!」(正しくは『仮面舞踏会』)とやらかしたり、わざとやってんじゃねえのと思うほど毎年毎年やらかし、期待するなというのが無理だった。
80年代後半になると小林幸子が舞台衣装を過激化させたり、小柳ルミ子が毎回熟女エロな衣装で登場(彼女だけの総集編が見たいなあ)、結婚直前の88年には大澄賢也をダンサーに従え「愛のセレブレイション」を披露、いかにもバブリーな演出が増えていった。
そういう意味でバブル時代の「紅白」は、視聴者の放送事故への期待と製作サイドの過剰な話題性追求が絶妙にシンクロする一種の悪趣味番組として成長したのだ。
対する民放も悪趣味には悪趣味で対抗という路線にならざるを得ず、結果、その方向性が暴発するのが94年の日テレのダウンタウン司会による6時間ぶっ続けの野球拳特番(あまりに下品と批判殺到)であり、2000年代初頭に民放各局が横並びする格闘技路線(03年の曙VSボブ・サップ!)あたりまで脈々と続く。そういうふうにテレビというメディアの終着点がはっきり現われるのが一年の終りの大晦日ってことだろう。
90年代にあれよあれよと低迷していく視聴率
ただし90年代以降はビデオ機器が普及して大晦日の番組をオンタイムで見る必然性はなくなり、結果的にそれが「紅白」の視聴率低下に直結したのだけども、NHK内部には「悪趣味が原因で紅白離れ」みたいな誤解があったのか、演出はその後洗練されて逸脱は少なくなった気もする(小林幸子以外はね)。
それでもパプニング、異常事態への期待はなくならず06年のDJ OZMAの肉襦袢ダンスとか、14年の中森明菜の重苦しい「低気圧が…」発言みたいなのは、多くの人の記憶に残っていることでしょう。まあ、その辺の時代は後日に情報が出回るので「オレはリアルタイムで見た!」みないな達成感、充実感はまったくないけどね。
そのようにかつて「紅白歌合戦」とは自分にとって権威に対するルサンチマンの確認として意義があったわけだか、最近見続けているのはその理由ではない。
バブルの余波があった90年代は世間も自分も経済的に豊かだったので、大晦日でも朝方まで飲み回って「紅白」やらその他の大晦日番組はお店もしくは録画で視聴していたが、出版不況が深刻化するここ数年は年末に連夜飲み歩く酔狂もできなくなった。せつない結論だが、自身の活動力の低下のせいで大晦日は自宅でなんとなく「紅白」を見てるのであって、もはやハプニングへの期待もそれを笑う元気もない。
実は大晦日は「紅白」よりもテレビ東京の「年忘れにっぽんの歌」のほうが大好きで、夕方から家で酒飲みながらニヤニヤ眺めております。
見どころは毎年毎年、素敵なピンク系の振り袖で登場、番組の目玉となった熟女観音・五月みどりの生娘のようなお姿。年齢を経てますます少女っぽいのが凄い。
同番組、最近は生中継じゃないので大きなハプニングはありえないが、その不謹慎な見方についてはまた別の機会に。
今年は50回記念で午後4時から10時までの長丁場、すごく楽しみ(「紅白」はたぶん録画で…)。
文◎藤木TDC