中国人観光客よ、最低限のマナーを守って! 日本寺院僧侶も困り果てた”小さなチャイナショック”

china.jpg

写真はイメージで文中に出てくる人物とは関係ありません

 中国人観光客の現地での振る舞いに対し、世界各地からクレームが上がっている。

 2018年10月、タイの人気観光地ピピ・レー島は、マヤ湾の環境破壊を理由に周辺地域の立ち入り禁止期間を延長した。その原因の一つに、中国人団体観光客のゴミのポイ捨てがあるという。
 近年、格安ツアーで中国人観光客がこぞって訪れるインドネシア・バリ島でも問題が顕在化している。ヒンドゥー教の宗教施設でところ構わず喫煙・ポイ捨てし、挙げ句、痰やツバを吐いて大声で騒ぎ立てる中国人観光客の振る舞いに、現地で懸念の声が上がっているという。こうした事態を受けてか、バリ州のイ・ワヤン・コステリ州知事が「品のいい観光客に来てほしい」と暗に中国人観光客を揶揄する発言をしたことも報じられた。
 アジアのみならず、先月にはスウェーデンで、中国人観光客と宿泊先のホテルとのトラブルが外交問題にまで発展した事件は記憶に新しい。これも中国人観光客側の横暴な振る舞いが問題の端緒になったとされる。

 一般的には政治や経済、軍事問題で中国が世界を震撼させることを「チャイナショック」と言うが、中国人観光客を介して、”対人・対面的な小さなチャイナショックが同時多発的に世界各地で起きている”ようである。
 そしてそれは、我が国においても然り。
 外国人観光客がこぞって訪れる仏教寺院に絞って挙げてみよう。

中国人観光客が日本の寺院で起こした事件

 旧聞だが、2015年12月13日、京都清水寺の絵馬掛け所で「偽の絵馬」が100枚以上発見された。清水寺で授与する”正規の”絵馬は、縦11センチ、横18センチ、厚さ1センチ。一方、発見された絵馬は、縦9センチ、横14センチ、厚さ5ミリと一回り小さかった。また、「音羽寺清水寺」との正規の絵馬とそっくりの偽印も捺されていた。
 願い事は全て中国語で書かれていた。絵馬の奉納費用を浮かせようという、中国側旅行社の悪だくみだろう。海賊版絵馬を奉納させて、果たして願い事が叶うのかは疑問だが。

 2017年4月、東京、大阪、京都、奈良、沖縄の五都府県の寺社8箇所で、謎の液体が散布された事件の犯人も中国人観光客だった。
 被害に遭ったのは、東京の明治神宮、浄土宗大本山増上寺、聖観音宗総本山浅草寺、大阪の浄土宗法善寺、京都の賀茂御祖神社(下鴨神社)、奈良の金峯山修験宗総本山金峯山寺、沖縄の首里城公園と旧祟元寺。いずれも観光客でにぎわう寺社だ。
 捜査一課は同年4月13日、中国籍の朴今玉と朴善愛容疑者を建造物損壊および器物破損容疑で全国に指名手配したが、両容疑者はすでに上海に出国した後だった。

数々のマナー違反に寺院僧侶も辟易・・・

 こうした”事件”ばかりでなく、寺院境内での中国人観光客のマナーに対して顔をしかめる住職は多い。以下、匿名で意見を寄せてくれた。

「境内にあるベンチや休憩スペースを、たびたび中国人の団体客が占拠してしまいます。ツアー催行のスケジュールが悪いのか、いろいろ連れて行かれて疲れているのか1時間くらい居座ってしまうことがあって、他の参拝客や観光客から文句が出ています。お寺としては国籍で差別はしませんが、ベンチにも限りがありますし、他の方々への配慮をもう少ししていただければありがたいです」(都内の寺院僧侶)

「団体客は各国からいらっしゃいますが、中国人のツアー客は1組の数がとにかく多い。トイレに長蛇の列ができてしまうのは仕方ないし、お寺としてもトイレを増やすなど対応すべきことかもしれません。でも、木陰に隠れて用を足す人がいるのには怒りを覚えました」(京都の寺院僧侶)

「鳩のエサやりを禁止する看板を中国語と英語と韓国語表記で掲げていますが、いまだに必ずやる人がいる。会話を聞くと、中国人。子供にエサをやらせて遊ばせているケースが多い。注意すると、なぜこんなことで怒るのか、といった対応をされる」(都内の寺院僧侶)

「お寺は気持ちを落ち着かせる場所。本堂では静かに過ごすことがマナーだと思います。なので、中国人観光客の会話が大声なのはいつも気になります。中国語特有の発声や抑揚なのかもしれませんが、どうも我々には怒っているようにも聞こえてしまう。静かにさせてくれと、他の参拝者から指摘されることはよくあります」(京都の寺院僧侶)

「境内が広く、僧侶だけでは境内すべてに目が届きません。実際に見た訳ではありませんが、中国人観光客の子供が境内の松の古木に登っていたと参拝者から教えてもらいました。ケガがあるといけませんし、団体客なら周囲で注意し合わないのか、と疑問に思いました」(京都の寺院僧侶)

「お寺の心字池(『心』の字をかたどった日本庭園)は、砂利を整地したり植栽の手入れをしたりと、作庭に時間もお金もかかります。中国人の観光客が庭に立ち入って写真を撮るようになり、庭が荒らされるので立ち入り禁止の注意看板を立てるようにしました。これまで他の外国の方もいらっしゃっていましたが、あえて注意しなくてもそんなことはなかったのですが・・・」(九州の寺院僧侶)

「境内の草花を手折るのをやめてほしい。今の季節はモミジ。春は桜です。これ以上、中国人観光客が増えると、イナゴの大群に襲われたように境内の風物詩がなくなってしまうのではないかと、坊さん同士で笑えない冗談を言い合ってたりしますよ」(京都の寺院僧侶)

 話を伺った僧侶らが共通して口にしていたのは、「文化の違いがあったとしても最低限守るべきマナーはあるのではないか」ということだ。まったく、その通りだろう。

“小さなチャイナショック”はこれからも続く

 余談だが、筆者は2005年から2006年にかけて中国に留学していた。
 当時印象的だったのは、「文明人になろう」と不思議なスローガンが書かれた赤い横断幕が、大都市・地方都市を問わずいたる所に掲げられていたことだった。北京オリンピックを控え、訪中外国人の目を意識したのだろう。中国共産党は人民に対し、「公共空間でマナーを守る人民になること」を大々的に啓蒙していたのだった。

 ここで言う「文明人」とは、「ゴミはゴミ箱に捨てる」「路上で痰やツバを吐かない」「用はトイレでたす」「バスや電車では列に並ぶ」人たちのこと。
 中国国内メディアもこぞって、「非文明的な人民」のマナー違反を批判した。「花壇で子供に小便させる親子の姿」をモザイクなしの写真とともに新聞に掲載したり、「路上で痰吐くおじさん」の写真に”我々はいつになったら文明人になれるのか”と自虐的な見出しをつけて報じたり・・・。

 10年以上経ち、世界各地で挙がるクレームを見聞きするたび、あの、国を挙げての人民啓蒙キャンペーンは何だったのだろうかと考えさせられる。残念ながら、効果は見えてこない。
 これからも世界中で同様の問題が指摘されるだろう。”小さなチャイナショック”は終わりそうにない。(取材・文◎東康)