キムチ好きは非国民か?「情報の記号化」が招く危険について:ネットウヨク論第13回
インターネットが普及する前の、メディアといえばTV・ラジオ・雑誌・新聞しかなかった時代と比べると、現在はあまりに情報量が多すぎ、日々触れる情報を処理するにはコツが必要だ。例えば検索エンジンを上手に使うとか、SNSで繋がる対象を絞るとか。
だが当シリーズで触れたように、そうした「情報入手先を絞る」という手法には、情報の偏りや自己洗脳といった危険がつきまとう。中でも特に注意して欲しいのが”情報の記号化”である。今回はこの記号化の持つメリットとデメリットについて考えてみよう。
まずメリットとして、情報収集作業の簡略化が挙げられる。 膨大な量の情報を取捨選択するには、その情報が自分にとって必要か否か、また興味があるか否かといった記号によって振り分けた方が楽だ。自分に全く関係がない情報に手間をかけていては、その分必要な情報に割く時間が減るのだから、「ファッション」「ゲーム」「レジャー」といった記号(カテゴリー)にざっくりと簡略化し、その記号自体を必要ないと判断したらスルーするといった手法が “今どき”であろう。
ただ、じっくりと物を考えなければならない局面で記号を持ち出すのは危険である。何かしらニュースを目にした際に、そこに関わっている人間や背景などによって、「これは○○だから××だ」と先入観を持って判断したり、細かく突き詰める作業を怠って物事を決めつけてかかったりすると、思考力が鍛えられないし、それこそこのシリーズで何度も指摘している失敗例(自己洗脳だとかデマに踊らされるとか)そのものになってしまう。
無理矢理ネットウヨク的な話題にすると、例えば何か事件が起きた際に登場人物に日本人と韓国人がいたとする。この時に「韓国人=悪」といった記号化がされていると「どうせ韓国人が犯人だ」といった結論が瞬時に導き出されてしまう。
また登場人物が日本人だけだったとしても、「在日=悪」という記号だけで思考してしまうと「どうせ犯人は在日だ」となってしまう。世の全ての在日○○人や韓国人が悪人な訳ではないし、逆に日本人が全く悪事に加担しないのかといえば絶対にそうではない。世の犯罪者の全てが在日朝鮮人だったとしたら、日本の人口の内いったい何割が在日朝鮮人なんだという笑い話にもなるだろう。これなど記号化と自己洗脳が組み合わさった救えないケースである。
こうした妙な記号化に慣れてしまうと、思考よりも記号に対して反射的に湧く感情が優先されるようになる。貴方が常日頃頭に刷り込んでいる「○○だから××だ」という記号は、原則として貴方にしか通用しないものだ。他人(ないしは社会)が貴方と同じように記号を認識してくれるとは限らないのだから、行き違いからトラブルになったり、最悪の場合は名誉毀損などで訴えられるケースも考えられる。SNSなどの手軽に発信できるツールを使う場合は特に注意が必要だろう。
また上で少し触れた記号化と自己洗脳が組み合わさった場合では、自分が悪意を持っている記号ばかりに目が行き、それ以外の知っておくべき情報から遮断されてしまうということも考えられる。例えば、韓国を憎む余り”キムチ”や”整形”といった世にある”韓国的な記号”にばかり目が向いてしまい、ニュースの見出しなどを読む場合にまず”韓国的な記号”を優先して探すようになってしまう。ネトウヨがロクすっぽ日本文化を知らず、逆に妙に韓国文化に詳しいのはこれが理由であろう。韓国・朝鮮の記号ばかり集めるとは、「そもそもお前は何人なのか?」という話だ。これに自己洗脳が加わると、少しでもその記号を持った対象は全て韓国人に見えるようになってしまう。どこかのタレントがTwitterなどで 「どこそこで食べたキムチ鍋が美味しかった」と漏らせば、即座に「非国民!チョウセンジン!」と罵る病人がいるが、アレがまさにソレである。そういう輩にとって「韓国・朝鮮=悪」という強烈な記号があるため、それ以外の考え方が出来なくなってしまっているのだ。キムチだとか水の飲み方だとかで炎上する著名人や政治家は、たまたま「韓国・朝鮮的な記号に触れてしまった」ために、あまりに幼稚な「エンガチョの発想」で叩かれているのである。
こうした盲目化にはもう少し大きな問題がある。例えば日本の今後を考える際に、最も危険な国家とはどこだろうか? ネトウヨ連中は「敵国といえば韓国・朝鮮」と記号化しているが、日本にとって韓国とはそれほどの脅威なのだろうか?
確かに韓国は竹島を不法占拠している。あの島を巡っては、日本の漁民が殺されたという話もあるくらいだし、国土が侵された上に国民に死者が出ているのだから、領土問題どころか戦争問題としても大袈裟ではない話かもしれない。
だが、それと比較して尖閣にちょっかいを出して来ている中国はどうか? 脅威としては韓国と中国のどちらが上だろうか? また未だに北方領土問題が解決していないロシアはどうだろう? TPPをゴリ押しして来ているアメリカはどうだろう? 自称愛国者の皆さんは、本当に韓国・朝鮮だけにヒステリックになっていていいのだろうか? 例えば中国など正史に残っている限りでも何千年もの間”謀略・策略”を繰り返してきた国である。ついでに言えばアメリカなども(表面化しているだけでも)様々な謀略を日本に対して仕掛けて来ている。よくロッキード事件はアメリカの謀略だという説がささやかれるが、それ以前に東京裁判だって原爆投下の正当化だってアメリカ主導の謀略のようなものではないか。
さて、このようにどこかのタイミングで「韓国・朝鮮=悪!敵!」といった強烈な記号化と刷り込みが成されてしまうと、それ以外が見えなくなってしまう。 自分が悪意を持ちたい対象は全て韓国人や朝鮮人と決め付け、それ以外の可能性を思考から排除してしまう。これでは単なる「騙されやすいバカ」である。きっとロシアと戦争になっても重度のネトウヨは「韓国が攻めてきた!」と騒ぐだろう。
物事を判断する場合は、可能な限りあらゆる可能性を考慮し、確かな証拠と照らし合わせ、自分なりの結論を導き出すのが当然の手順だ。その当然の手順を踏める賢い日本人がひとりでも増えてくれる事を切に願うばかりである。
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Written by 荒井禎雄
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自己洗脳は避けましょう。