大物国会議員から「君を抹殺するぞ!」と言われた話|久田将義・連載『偉そうにしないでください。』第一回

大物国会議員から怒鳴られました

編集者というものを少しばかしやっていると、色々な抗議を受けます。抗議をした事もあります。裁判を起こされた事も、起こした事も多々あります。芸能人や政治家などは、裁判に訴える人が多くなってきました。
中には呼びつけて怒鳴りつける人もいます。そういう事に慣れてしまったような僕ですが、それでも「この人は酷かったな。色々な意味で」という議員がいました。

なぜあのような事態になってしまったのでしょうかーーー

某年某月。打ち合わせが終わり、編集部に帰ったら後輩A君が申し訳なさそうに、僕に声をかけてきました。

A君「あのー、Bさん(大物国会議員)の記事なんですけど。抗議の電話があって、明日の朝10時半に議員会館に行かなければならないんです」

僕「どうすんの」

A君「だから一緒に来てもらおうと思って」

僕「要するに謝れってこと?」

A君「ええ。僕一人ではちょっと……。相当怒っているんですよ」

気が進まないですが、A君も相当ビビッていました。二人で行った方が大げさですし、その議員さんの気も少しは休まるかも知れません。
仕方がありません。これも仕事のうちです。とは言え、僕はその記事の担当ではなく、また当時は編集長ではなかったので、そんな記事が掲載されていたことも気づきませんでした。付け加えると小さなコラムでしたので、目立たなかったのもあります。

僕「わかった。明日ね」

という事で待ち合わせ場所は、議員会館にしました。

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謝罪アポイントをすっぽかす後輩

待ち合わせ10分前に、議員会館につきました。ところが、A君が来ないではないですか。僕は焦りました。携帯を鳴らしました。するとまだ家だといいます。マジでー??

「……じゃ、俺が一人で行ってくるわ」

やり切れない気持ちを抑えて、受付用紙に名前、会社、住所、用件を書き、窓口の女性に渡しました。時計は10時25分を過ぎていたと思います。

間に合わないかも。

焦りました。謝罪に行くのに遅れたら洒落になりません。というか謝罪になりません。
金属探知機を抜けたら、走りました。はあはあ息切らしたり汗まみれの顔を嫌がる人もいるので、何とか息を整えます。すでに二、三分遅れています。

議員の個性によってその部屋の雰囲気はかなり違います。フレンドリーな部屋もあったり、なぜか物凄い美人が秘書だったり、体育会系の部屋だったり。
B議員の部屋はシーンとしていました。豊田真由子前衆議院議員の部屋もこんな感じだったのでしょうか。

「遅れましてすみません」

と秘書に告げます。
固い表情で秘書が議員の部屋をノックすると「ああ」だか「おお」だか中から返答。議員の部屋に入り、丁寧にお辞儀をします。目の前で見ると、さすが大物議員だけあって生気がありました。
失礼します、と言って席に着きます。とりあえず謝らなけば。

僕「この度はうちの記事で何か不手際があったようで」

お茶も水も出さないところを見ると、相当怒っているようです。
B議員が怒鳴りだします。テンションいきなり高いです。起こり慣れているんだなと今では思います。

「ワシはねえ、党の幹部だよ! そのワシが選挙に弱いとか、危ないとか、誰が言ってんだ!」

これは言えませんね。情報源の秘匿です。

「はあ、それは明かせませんが……。これは地元の方や政治記者なら誰でも知っていると思いますよ」

と返す僕。

B議員「そんなはずはないっ。ワシはなあ、全ての支部から支持取ってんの!」

僕「(困ったな)」

B議員「だから連れて来いっ。そういう事を言った奴を!」

怒鳴りっぱなしです。で、一応、この人が書いた本を持ってきていたので取り出しました。

僕「あ、先生の本も愛読しております(※読んでいません)」

効果はありませんでした。

B議員「そんなのしまえっ。何をニヤニヤ笑っているんだっ」

愛想笑いなんですが受け入れて頂けないようです。

僕「それは情報源の秘匿という大前提に反しますので」

すかさずマウントしてくるB議員。

B議員「なあにを偉そうに」

多分、こんな感じで官僚を怒鳴りつけていたのでしょうか。僕もつい言い返してしまいました。

僕「偉そうにと言われましても」

怒りが収まる気配がありません。ここはいったん、引き上げる事にしました。

僕「明日どのような取材をしてこのような記事掲載に至ったということをお手紙かファクスでお送りする形でいかがでしょう」

B議員「おう、それでいい。送って来い」

大変偉そうでした。拍手をしたいぐらいでした。

僕「ファクスだと失礼でないでしょうか」

大物「ああ。いいから、ファクスで流せ」

礼をするとB議員はもう僕がその場にいないかのように新聞を読み始めました。

「この度はどうもすみませんでした」と言ってもB議員は新聞から目を上げません。なかなか受けた事がないほど、きれいな無視でした。

『今からわしの自宅へ来い!』 B議員の怒りは止まらなかった

帰社するとA君がいました。担当編集者としてどうなんだろうと思いながら、B議員の怒りぶりを伝えておきます。B議員への報告書ぐらい作成して欲しかったのです。

僕「とりあえず謝っておいたから。で、この記事がどのようにして載ったのか過程を報告してファクスで流せって。勿論、情報源は守らなくちゃならないからそこは書かなくていいから、ざっと流れを教えてくれる?」

A君「流れと言いましても」

僕「どんな感じで打ち合わせしてどういう根拠でこういう記事を書いてもらったって事だよ」

A君「あんまり打ち合わせしなくてお任せで書いてもらったので」

……僕はそれ以上、彼と話すのは時間の無駄と思い、書いたライターさんと直接連絡を取る事にしました。そして、取材過程を書いたペーパーを貰い、ネタ元も教えてもらいました。
ライターさんの説明は明快でした。また、少しでも政治に接している者なら、この程度の情報は当然入手できるものと分かります。
さて、これをどうやってオブラートに包みながらA議員にファクスするか。こういった謝罪や説明の文面は嫌という程書いてきたのですが、慎重に記載しファクスしました。

翌日出社して、しばらくして総務部の女性社員から「B議員から電話です」というひきつった声。受話器を持ち上げたはいいのですが、また怒鳴られました。

B議員「おいっ、何だこのファクスは! 全然説明になっとらんじゃないか!」

僕「これがこちらの記者が裏取りを行ったという事実をご説明したペーパーになります」

B議員「なぁにを言っとるんだ、君は(※口癖でしょうか)。だから、どこの誰がそんな事を言っているのか、根拠を示せって事だよ!」

僕「それを言うと情報源の秘匿が守れません。ただ先生もご存知のソースという事くらいしか申し上げられないんです」

B議員「君ものらりくらりとかわすなあっ(※有難うございます)。書いた奴を連れて来い!」

僕「それは出来ません。そういう約束で書いて貰っていますんで。そして僕が責任者です」

B議員「そんな茶番劇みたいな事を。あのなあ、いい加減にしないと抹殺するぞ‼」

僕「先生、今何と……」

B議員「だからね、そんないい加減な事書く奴は抹殺すると言ってるんだ」

この人、言っている意味わかっているのでしょうかと唖然としました。脅迫に当たらないかと僕は疑問に思いました。
僕は黙りこんでしまいました。実は少し、いやかなり僕も頭にキテいたので口を開かない方がよいと判断したのです。すると、B議員がこんな事を言いました。

B議員「もういい! 今から来い」

僕「今日はこれから予定が入っています」

B議員「なぁにを生意気な。今から私の自宅に来なさいと言ってるんだ」

本当にこれからアポが入っているんです。しかも自宅? 何かの出前と間違えていないですか。

僕「明日はいかがですか?」

B議員「じゃ明日来い! 今度は国会の私の部屋に来い」

さて明朝。国会の彼の部屋に行はました。ご存知ない方に説明しておくと国会は複雑な構造になっていて慣れていなければ絶対迷います。警備上そういう造りになっているのでしょう。

で、僕も迷ってしまい、時間より遅れました。案の定、B議員はそれにも激怒。部屋中に響き渡る声でまた怒鳴り散らしていました。でも僕から言う事は、もう何もなかったので神妙にうなずいていました。

反省点はないです。一方的に言われまくっただけでした。で、ただ、これだけは言えます。この世で一番怖いものは国家権力だと思いました。

今でも「わしは自民党の五役だぞ!」という怒鳴りは頭の中に残っています。

(『トラブルなう』より再録・加筆)

文◎久田将義